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翌日、早朝からザック殿下やライオット兄が、南の殿下達の朝の鍛錬に加わると聞いたので見学に行くことにした。
南の男性王族の皆様は全員、武士、西で言うところの騎士なのだそうだ。
「まあ、リリベル嬢おはよう」
「おはようございます。王太子妃殿下」
「鍛錬を見学しにいらしたの?アイザックも加わるからね?あの子は兄達に比べたら剣術も武術も最低限しかやらなかったのに」
「そうなんですか?」
リリベルが知る限り、ザック殿下は旅の間も騎士達と毎日、身体を動かしていたイメージだ。
「フィリップも…ああ彼も公爵家に入ったのだったわね。彼も結婚するとは思わなかったけど、アイザックは随分成長したと言っていたわ」
「ザック殿下はいつも周囲の意見を聞いて励んでおられます。彼の側近達も優秀な者ばかりですから」
「そう。でも以前はかなりのお子様だったのよ。末っ子だし、甘やかされていたわ」
それはもう皆が知ってますよ。
「あなたのお陰なのかしら?あなたがアイザックを変えてくれたのでしょう?」
「そうなのでしょうか?でもアイザック殿下は、かなり負けず嫌いだと思います。それに運動神経も良いし」
「それはそうだったかも。あと、ありがとう。青薔薇の押し花の栞と額。母の青薔薇でしょう?ここではさすがに育てられないから欲しいって言えなかったの」
「あれは暑さに弱いだけですから、涼しい所で世話すれば」
「ううん、いいの。もうそこまで欲しくないから。まあマレシオンも加わっているわ!」
と言いながらリリベルを見る。
どういう意味でしょうか?
「私、あなたのお姉様のララベル夫人の事を、以前は誤解していたわ」
「学院生時代に姉が身の程知らずで、王太子殿下の側に侍っていたのがいけなかったのだと思います」
「そうねぇ。男性をたぶらかす、あざとい女だと思っていたの。でも実際、こちらに来て付き合ってみると、多分…悪かったのは兄の方だったと思ったわ」
「姉が王太子殿下のお誘いを真に受けたのがいけなかったのでは?」
「そうかしら?王太子の誘いを社交辞令だと断れる?それにあなた方のお兄様も一緒にいたのよ?」
「それでもお断りするべきだったかと」
「あなただったら出来たかもね。でも彼女は恋愛目的で学院に来ていたのでしょう?兄は見た目も王子以外の何者でもないから、恋をしても仕方ないわ」
ララ姉は王太子殿下に恋をしたのだろうか?
「それに実際、兄の婚約者がマレシアナじゃなくて、もっと平凡な令嬢だったら奪えたかもしれないって思えるの」
「やめて下さい!恐ろしいです」
「だってララベル夫人の外交官夫人としての能力は素晴らしいわ。この国の王族も彼女を気に入って、王城には出入り自由にしているの。まあ主に王女殿下が彼女を離さないんだけど」
「あら!模擬試合をやるのかしら?!」
殿下方はさっきまで素振りしていた木刀を、対戦相手を決めて構え始めた。
「まあ!アイザックったらジョーを相手に、あんなに立ち回れるなんて!」
龍ノジョウだからジョー?
「でもだいぶ手加減されておりませんか?」
「それは当然よ!ジョーはこの国で一番強いわ!」
それは驚きだ!西では普通は騎士団などの中に強者がいる事がほとんどだ。
「私も嫁いで、まだ一年だから知らない事も多いのだけど、この国の王族男性は騎士と同等の教育を受けるわ。龍と名前に付く者は強くないと国民に顔向けできないの。ドラゴンは強くて愛情深い。そして仲間を大切にする。それがこの国の信仰する象徴的ドラゴンなのよ」
「リリベル嬢、殿下方の鍛錬が終わったら、どなたにタオルをお持ちになりますか?」
フィリップ様がいつの間にかワゴンと一緒に隣にいた。
王太子妃様は興味津々でリリベルを見ている。
「どなたにもお渡ししません」
「チッ」
舌打ちしたー!!王太子妃様が舌打ちー!!
リリベルが驚愕の面持ちで王太子妃様を見ると
「使えないわねぇ。いいえ、臆病者なのね」
と言われてしまった。




