許されざる波濤
「これはもはや、岩の荒地じゃないか?」
「ですねぇ。ここまで草木がないのは、ちょっとおかしいかと」
辿り着いた場所を見渡して、そんな話をする。
道を行く中で、急に景色が変わってきたのだ。
目立つのは大きい岩や、ところどころにある水たまり。
例えるなら、森林限界やヒースのような場所に見受けられた。
広がる光景は、そこから更に植物を根絶やしにした感じだけれど。
「土が広範囲に掘り起こされてもいないし、植生豊かな土地ではなさそうだ。でも、初めから生えてないってより、無くなったって感じかね」
土壌はある筈なのに、植物らしきものだけが視界にまったく存在しない。
これは、確かに異常と言える。
土の状態から、大きな木とかは無かったのだろうけれど。
「多分、例の大繁殖した魔物が、根こそぎ食べちゃったんだろうね」
「え……、元々ここはこういった土地ではないんですの?」
フランはそこまで自然に詳しくない。
そんな彼女には、特に変な光景には映らなかったようだ。
「青々と茂っていた訳ではないだろうけど、流石にゼロではないよ。水気も結構あるしね」
仲間内で会話を続けながら警戒を怠らずにいると、魔物の大群を感知した。
どうやら休憩中らしい。
「あれは……甲殻犀か」
「うっへぇ。あたしが苦手なタイプじゃん」
オレたちが今いる道は、荒地より少し高い位置を通っている。
眼下には堅い鎧を身に纏った、サイの群れが蔓延っていた。
見た目は、一本角のトリケラトプスだな。
それが無数に連なっている様は、軍隊の大行進のようにも見える。
「まぁ、予想できた範囲だろ」
「相性は良くありませんが、即時撤退を決め込む程ではない……のかしらね?」
商人は魔物の生態に詳しくなかったので、四足歩行のデカイ魔物の集団、としか教えて貰えなかったのだ。
敵の正体や強さの予測はしていたが、規模も強さも想定より多少は上だった。
「いや、あの規模だと間違いなく、Bランク以上の冒険者パーティー数組に指名が入るクラスだと思うんだけど……」
下手したらAランクパーティー複数がかりだよ……と、エルミアが遠慮がちに言う。
彼女はオレたちと出会う前から、路銀稼ぎに冒険者登録をしていた。その時の知識なのだろう。
「ミア、実物を見ていないから実感も乏しいのでしょうが、敢えて言わせていただきますわ」
何処か諦めたような口調でそう告げるフラン。
対するエルミアは何を言われるか分からず、ぽかんとしている。
「それ、赤竜とそのお供の群れよりも強いんですの?」
お前それサバンナでも同じ事言えんの?
フランが放った言葉が意味も違うのに、そう聞こえた気がした。
「うぐっ、そんな常人じゃ歯が立たない化け物を引き合いに出されてもぉ~」
その常人じゃ歯が立たない化け物を灰と為したのが、おたくの目の前にいる可憐な少女な訳ですが。
「と、突如増えたって言うよりは、食料を求めて大移動が起きていたのでしょうか」
微妙になった雰囲気を変えるべく放たれた言葉。
ここは乗らせてもらうとしよう。
「かもしれないな。確か、繁殖期以外は他の群れ同士でも仲間意識が強いようだし、幾つかの群れの集合体なのかもしれない」
オレ以外の三人には、ハッキリ言って相性の悪い魔物である。
フランはそこまででもないが、相手の数が数だしな。
ここはオレが奴らのど真ん中に切り込んで、注意を引き付けるのが妥当だろう。……論理的におかしいところはないが、無双したいだけなのは言うまでもない。
皆には安全地帯を作って、サポートを任せたいところだ。
「どちらにせよ、あれ程の数が通った後は、何も残らないであろう事が簡単に分かりますわね」
穀倉地帯を持つ自領を思い出したのか、少し顔が青いフラン。
「そうですねお嬢様。彼らが積極的に人間を襲わなくても、生存圏を脅かすのであれば、人間のエゴだとしても止めなければなりません」
「そもそも魔物なんだから、近付けば襲われるけどね。ああ見えてあいつら雑食だし。弓術士的には、狙いどころが少なくてやんなっちゃうけど、やるしかないかぁ」
大人しそうな顔で草を食べているのに?
メルヴィナはそう言わんばかりに驚いていたが、魔物の生態をあれこれ考えても無駄だと思ったのだろう。すぐに切り替えたようだった。
「よし、簡単な陣形と役割を決めよう」
オレの言葉に頷きが返ってくる。
「フランは土魔法で堀を形成。三重に構成して安全を確保。こいつらがどうか知らないが、オレが知っているサイは火を見ると消しに行く習性があるから、各所に火を放って囮にしてもいい。山なりに爆発系の魔法を放り込むのもアリだけど、基本は自衛に徹してくれ」
詳細な指示に、緊張の面持ちを持って頷くフラン。
次に顔を向けたのは、エルミアだ。
「エルミアは、曲射で狙うんだよな」
「うん、そのつもり」
彼女は、普段使っている矢とは異なる形状のものを準備している。
「分かった。ただ、他の魔物の乱入とかも一応警戒しといてくれ。一番ありえそうなのは、他の群れの合流だな」
「任せといてよ!」
最後はメルヴィナだが、今回の戦闘において彼女が担う事は殆どない。
光魔法での目眩ましは、視力が悪いサイにはあまり意味がなさそうだし。
「メルヴィナは、万が一こっち側に抜けてきた際の二人の護衛。それと、オレが怪我をしたら治療を頼む。最悪の場合は撤退の指示を」
「勿論です」
擦り傷一つも、負うつもりはないけどな。
「よし、堀の形成も終わったな。お疲れフラン。……じゃ、オレたちの存在に気づかれる前に、先制攻撃と行こうか」
オレが来た方向からフランたちの居場所が特定されないよう、一人で移動しつつ剣に魔法を付与していく。
今回は燃え移るものもないので、雷魔法も火魔法も全力で使えそうだ。
まったくもって腕がなるぜ。
「いつ以来だ? こんなチャンス」
期せずして独り言が漏れる。
「敵は一体でもCランク上位の強敵、強みは防御性能と突破力、そいつらが形成する無数の群れ。仲間は相性が悪く、頼れるのは自分の力のみ」
ソロでの旅は現実的ではないので、仲間を作るのは当初から既定路線だった。
それでも、仲間の強さや状況によって無双が悉く達成出来なかったのはオレの本意ではない。
だからこそ、ここは逃さず楽しまなきゃな。
「行くぜぇ、まずは全力の身体能力強化で跳躍。数頭を足場にして、魔犀の中心で開戦を叫んでやるっ!」
準備が整い、オレは駆け出す。
その、数歩目。
「――?!」
跳躍のために大きく体が沈んだ瞬間、事態は急転した。
ゴゴゴゴゴという大きな音を立てて、それは視界の先に迫っていった。
「こんなところで、津波!?」
そうとしか表現のしようのない光景が広がっている。
押し寄せているのは、どう見ても水。
それも海岸で見るような波だった。
「「「ルロォォ!?」」」
濁流が魔物を飲み込む。
その後すぐに、文字通りの第二波が向かってきた。
殆どのサイが二度の大波に飲まれた後、水は寄り集まって竜巻のようなものを形成している。その中心には、風の刃も顔を覗かせている。
明らかに、人為的な魔法の所業だった。
硬い甲殻同士がぶつかり合って割れたところに殺到した水と風により、どんどんと犀を模した魔物たちが屠られていく。
そんな情景を眺めながら、オレの胸の内に去来するのは一つの想いだけだった。
「また、オレの無双チャンスが潰れたァァ!!」
悲哀の込もった慟哭が辺りに木霊する。
――余計な真似しくさりやがったのは、何処のドイツじゃ、ボケェ!!
作者「お前それサバンナにも同じ事言えんの?」
アイザック「意味合い変わるからヤメロ」
え、某芸人さんとは関係ありませんよ?←マテ




