一番大事にすべきもの
長くなったので分割しました。
なので少し短め。
明日は18時頃に投稿予定です。
商談は成功した。
何も特別な事をした訳ではない。
この世界はどこまでも現実、という話なのだ。
オレが商人たちに提案した事を一言で表すとこうだ。
早期に依頼を出す事で、事態を複雑化させず双方に恩を売ろうぜ、と。
魔物の異常発生や大繁殖。
将来的にその影響を一番受けるのは、何処だろうか。
誰あろう近隣住民である。
つまり放置すれば、迷惑を被るのは街や村全体。
最終的には、領主やギルド主動で討伐される筈だ。
そのため、よくあるラノベのように、報酬はギルドや領主が持つと思うだろう。
だが、この段階ではそんな事はない。
考えてみれば当たり前だ。
正規のルートとは言え、街からはそこそこ距離が離れている。
誰かが勝手に討伐してくれるかもしれないし、魔物同士の縄張り争いなどで勝手に規模が縮小されるかもしれない。
そもそもの話、魔物の異常発生や大繁殖は、そうそう起こるものではないのだ。
簡単には信じられない上、確認まで時間が掛かる。
その確認も普通は冒険者に依頼されるのだから、発生地点まで向かう意思がある輩がいないと調査はされない。
特にこのエルーダを拠点とする冒険者は、遠くへ赴く依頼でもなければ霊山と別方向に向かう事などしない筈だ。そんな人間は奇抜の部類に入る。
目端の利いた権力者であれば指名依頼などを行う者もいるが、実際には事なかれ主義者が多い印象だと言えよう。
発生地点が他の国や領地との間であれば、明確な境界がある場合を除き、どちらが費用を負担して解決を目指すのかがネックとなるしな。
だからこそ、迅速な解決が行われ、それに貢献した者は高く評価されるのである。
ギルドなどの組織に報告した上で、自費を用いて問題を事前に防いだ場合。
限度はあるが、領主やギルドが経費の殆どを補填するのが通例だった。
これを行わない者は社会的信用が失墜するので、証明さえ出来れば、誤魔化される事も少ない。証明さえ出来れば。
「しかし、アイザック君の弁舌は巧みでしたね」
「エルフの森でも居たよぉ。口先で相手を納得させて、自分の望む様に人を動かすの」
先程までの会話を思い出して、メルヴィナが評してくれた言葉に余計な事が付け足される。
「おい、エルミア。それだと、オレがまるで詐欺師みたいじゃねぇか」
半眼でポンコツエルフを睨む。
彼女は人差し指を立てて、暫し「うーん」と悩んでいたが、テヘッと言わんばかりの表情を浮かべてこう言った。
「相手にも利益がある事を除けば、あんまり変わらなくない?」
「オッケー。買ったぞ、その喧嘩」
スッと立ち上がり、足早に距離を縮める。
予想より素早い反応だったからか、エルミアが目を丸くした。
「わわ、冗談だってば」
「殆ど本気だっただろうが!」
「なはは-」
「なははじゃねえ!」
「…………」
やばい、フランがまた剥れている。
最近エルミアと会話をしているとよく見る光景だ。
オレは鈍感ではないので、彼女がオレとエルミアの関係に嫉妬している事は推察できている。
嫉妬する嫁もまた可愛い……とか言ってる場合ではないな。
オレとあいつは単に、軽口を叩ける悪友のような関係なのだが……。
「フランはどう思った?」
「流石とは思いましたが、義兄よりアイズの方が領主の後継者に向いてるのではとも感じましたわね」
フランの冗談混じりの発言に、苦笑を返すしかない。
やはり女は強し、だ。
「それは勘弁してくれ……」
問題の場所は、エル-ダから馬車で一日少々。
隣国よりもこの街に近い位置だが、こちらの道をよく利用するのは隣国側である。
将来的には、どちらが対処するかなどの押し付け合いが発生するのは、火を見るより明らかだった。
だが、ここで未来を憂えたやり手の商人が、身銭を切ればどうだろうか。
被害は最小限で済み、印象は最高だ。
加えて、オレたちに払う報酬は、相場よりも少し安めにしておいた。
これは懐具合的にガツガツしていないというのもあるが、本来問題が大きくなった後に出される依頼なので、そこを鑑みた……という体にしてある。
向こうさんからしても、オレたちの実力は不明だしな。
つまり、オレたちがしっかりと問題を解決できる事。
これが前提だが、客観的には依頼を出した商人たちの素早く献身的な判断によって、コストが抑えられ被害も起きなかった。そう映る訳だ。
「商人さんも、まさか宿で会った冒険者の懐から、アイテム袋が出てくるとは思わないでしょうからね」
メルヴィナが言うとおり、証明に関してはアイテム袋がある。
討伐部位を捨てずに回収して来れる事は、異常繁殖を裏付けるにあたって、かなり大きい。
「本来貴重なものを、幾つも抱えているアイズがおかしいのですわ」
「酷ぇ言われよう」
オレはただ単に無双探求の旅には、輸送手段が必須だと思ったから、無理して集めただけなのに。
このパーティーが良質な旅を続けられるのは、半分はオレの功績だと思うのだが。
「ダメ押しが貴族に大商会だもんね~」
「まあ、普通冒険者から出てくる言葉ではありませんわね」
仮にいちゃもんや疑いを向けられたとしても、こちらには城郭都市の領主を担う貴族の後ろ盾がある。
商業組合向けには、流石にここまで離れると影響力が落ちるが、オレの実家フェイロン商会の名も少しは使える筈だ。
「結果的にはオレたちも足止めされないし、多少の金は入るし win-win だろ? 細かい事は気にしないが吉だぜ」
「ふふっ、そういう事にしておきましてよ」
フランがそう言って微笑む。多少は機嫌が戻ってきたようだ。
商人たちが実際に負担する金額は、そこまで多くないだろう。
多少は持ち出しになるだろうけれど、この街に釘付けとなって出る損失よりは少ない筈だ。
しかも、商業組合と街の権力者の歓心を得られるのだから、かなりお得な話に他ならない。
また、貴族や大商会の後ろ盾は、万が一解決できないという事態も含めて、彼らへの信用の担保にもなる。
若干の疑いはあっただろうが、彼らは二つ返事だった。
使えるものは妻の実家でも使え、である。
「んじゃ、早く寝て朝イチで行くか」
「え……」
そう宣言すると、フランが言葉を漏らす。
どうかしたのだろうか?
「……折角ちゃんとした宿ですのに、早く寝てしまうんですの?」
ぐうっ?!
フランのうわめづかい、こうかはばつぐんだ!
イルネストを発ってから、しっかりと個室がある宿は初めてだった。
今までは野宿や人の住居だったり、大部屋素泊まりである。小さな村では大抵そんなものだが。
つまりオレとフランは、新婚なのにご無沙汰……ってやつだ。いや、仕方ないだろ?
流石に、ざまぁ秒読みの好色勇者よろしく、馬車でおっぱじめる訳にもいくまい。
「……明日に響かない程度に」
「勿論ですわ」
今夜は寝かせはするけど、大事にするぜ。
結婚は初心者でも、コレだけは周知の事実。
どんな世界でも奥さんの機嫌取りは大事……はっきりわかんだね。
色々書いてると、中身は増えないのに文字数だけ掛かります……。
連続更新は問題なく出来そうですが、バトル決着は来週ですね。(まだ入ってるすらいない)




