裂界
ミヤ先輩は、アサルトと呼んだ男のもとへ近づくと、僕に紹介してくれた。
「この人はアサルト。アサルト・ディネート。私と同じ二年生よ」
ミヤ先輩がそう言った。
ミヤ先輩と同じ二年生か。
桜花学園は六年制で、六年生が最上級生だ。僕とセランはまだ一年生だから、目の前にいるアサルト先輩は僕たちの先輩ということになる。
「後輩たちか。それに、あそこに倒れているのも……」
アサルト先輩は、異獣の近くに横たわる生徒の死体を見て言った。
すると、セランが声を荒らげた。
「あ、あんたが来るのが遅いから死んだんだ! あんたがもっと早く来ていれば……!」
セランが言い終える前に、アサルト先輩の拳がセランの顔面を捉えた。
「がっ!」
セランの身体がよろめく。
「桜花学園に通う生徒が、そんな甘えたことを言ってるんじゃない」
アサルト先輩は、厳しい目でセランを見下ろした。
「誰のせいでもない。任務は常に死と隣り合わせだ。死ぬときは死ぬ。裂界から現れる異獣とは、そういうものなんだよ」
その言葉に、僕は何も言えなかった。
裂界と異獣。
僕たちは、そのことについてまだよくわかっていない。
裂界と呼ばれる場所があり、そこから異獣が現れる。今の僕が理解しているのは、それくらいだ。
僕たち人間が異獣に対抗するには、異能を使うしかない。
そのため、桜花学園では普通の学生が受ける授業よりも、異能使いを鍛えるための訓練に力を入れている。
それだけ、異獣との戦いは危険なのだ。
「死ぬときは死ぬって言ったって、あんな異獣を俺たち一年生が倒せるわけ……!」
「そうか?俺はそうは思わないけどな」
アサルト先輩は、セランの言葉を遮った。
「倒せなくても、俺のような人間が間に合うまで時間を稼ぐことくらいはできる。そこの君のようにな」
そう言って、アサルト先輩は僕を指差した。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。後輩、君の名前は?」
「僕はサツキ。サツキ・オウトモです」
「君がサツキか!ミヤが気に――」
アサルト先輩が言い終える前に、ミヤ先輩の拳がその腹部にめり込んだ。
「ぐふっ!」
アサルト先輩が腹を押さえてうずくまる。
……え?なんで殴ったの?
「何をするんだ、ミヤ!」
「余計なことは言わなくていいの。まったく、アサルトは毎回一言多いんだから」
ミヤ先輩は呆れたようにため息をついた。
……僕、何か余計なことを聞いてしまったんだろうか?
そんなことを考えていると、ミヤ先輩は携帯電話を取り出し、どこかへ連絡を始めた。
異獣を倒したあとは、その大きさなどに応じて回収班などに連絡する必要がある。
今回の異獣はかなり大きい。だから、回収班を呼ぶのだろう。
ミヤ先輩が連絡を入れてから数分後、回収班が到着した。
ミヤ先輩は回収班の人たちと話しながら、必要な手続きを済ませていく。
そして、すべてが終わると、僕たちは学園へと戻ることになった。
帰り道、亡くなった生徒の身体を背負っていたのはセランだった。
セランは、何も言わずに歩いていた。
いつもなら、何かしら文句を言ってきそうなのに。
……あの生徒は、セランにとって大切な友人だったのだろうか。




