無能のサツキ
ミヤ先輩とともに桜花学園へ戻ってきた僕は、先輩と別れて自分の教室へと向かった。
ミヤ先輩は学園長室へ、先ほどの異獣討伐について報告に行くらしい。
僕は教室に入ると、自分の席に腰を下ろした。
「よぉ、無能。今日の異獣討伐はどうだったんだ?」
僕の席に、一人の男が近づいてきた。
黒い長髪に鋭い目つき。体格はごく普通だが、その表情には人を見下すような笑みが浮かんでいる。
セラン・マカラン。
同じクラスの生徒であり、何かと僕に絡んでくる男だ。
「セラン。何度も言っているけど、僕は無能じゃない。自分の異能がわかっていないだけだ」
「へぇ。じゃあ、いつになったらわかるんだよ?」
「それは……」
言葉に詰まった僕を見て、セランは鼻で笑った。
「自分の能力すら理解できていないくせに、異獣討伐に参加するなんてな。足手まといになっていないといいけど」
「お前だって、そんなに偉そうなことを言える実力なのか?」
僕は思わず言い返した。
「お前の異能だって、弱点はあるだろ」
「……は?」
セランの表情から笑みが消えた。
「俺様の異能が弱いだと?冗談も休み休み言えよ」
「別に弱いと言っているわけじゃない。ただ、使い方を間違えれば対処されるって話だ」
セランの異能は、相手の背後へと突然移動し、奇襲を仕掛ける能力だ。
初見であれば、背後を取られた時点で相手は対応に困るだろう。
使い方次第では、かなり厄介な異能だと思う。
だけど――。
「お前の異能は、背後を取ることに特化している。その分、武器を持って背後をとることができないという弱点がある。相手に動きを読まれたら、どうするつもりなんだ?」
「ふん。だから何だ?」
セランは不敵に笑った。
「異能ってのは、使い方次第なんだよ。どんな能力だろうと、扱い方を工夫すれば強くなる。お前みたいに、自分の能力すら理解できていない奴に言われたくねぇな」
「…………」
悔しいが、言い返せなかった。セランの言っていることにも、一理あるからだ。
異能は、ただ強力であればいいというものではない。
使い方次第で、弱い能力でも強敵に勝てる可能性はある。
それでも――。
「俺様はお前と違って、自分の能力を理解している。せいぜい無能なりに頑張るんだな」
セランがそう言った、そのときだった。
教室の扉が勢いよく開いた。
「ねぇ。いつまで他人をいじめているつもり?」
僕とセランの間に、一人の少女が割って入る。
白銀のような長い髪。凛とした表情。
ミヤ・アサカ先輩だった。
「惨めにしか見えないわよ」
「……ミヤ先輩」
セランは一瞬だけ驚いた表情を浮かべたものの、すぐに顔をしかめた。
「先輩こそ、いつまでこんな奴の面倒を見るつもりですか?もっと最前線で活躍するべきなんじゃないですか?」
「それをあなたに決められる筋合いはないわ」
「…………」
「それとも、私に何か言いたいことでもあるの?」
ミヤ先輩が冷たい視線を向けると、セランは口を閉ざした。
しばらく睨み合った後、先輩は僕の方へ振り返った。
「サツキ。こんな子は放っておいて、行きましょう」
「え?どこに?」
「訓練場よ。今日も私が稽古をつけてあげる」
「わ、わかりました。ミヤ先輩」
僕は慌てて席を立ち、先輩の後を追いかけた。
教室を出る直前、背後からセランの声が聞こえてくる。
「……いつまでも先輩に守ってもらえると思うなよ、無能」
僕は振り返らなかった。
だけど、その言葉は確かに胸に突き刺さっていた。いつか必ず、自分の力で認めさせてやる。
そう心に誓いながら、僕はミヤ先輩とともに訓練場へ向かった。
◇
訓練場に到着すると、ミヤ先輩は異能を発動させた。
彼女の手の中に光が集まり、一本の剣が形作られる。
異能《新星の剣》。
何度見ても、その美しさには目を奪われる。
「それじゃあ、始めましょうか」
ミヤ先輩は剣を構え、僕に向き直った。
「今日も私が鍛えてあげる。少しでも自分の異能を理解できるように、集中しなさい」
「はい。いつもありがとうございます」
僕は深く頭を下げた。
ミヤ先輩は異獣討伐のときだけでなく、こうして普段から僕に稽古をつけてくれている。
先輩自身も忙しいはずなのに、僕のために時間を割いてくれているのだ。
本当に、感謝してもしきれない。
だからこそ――。
いつまでも甘えているわけにはいかない。
「サツキ。準備はいい?」
「はい!」
僕は拳を握りしめた。自分の異能が何なのか、まだわからない。
それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
僕は強くなりたい。いつか必ず、誰かを守れるくらいに。
そして、いつか――ミヤ先輩の隣に立てるくらいに。
「行きます!」
僕は地面を蹴り、ミヤ先輩へと向かっていった。




