サツキ・オウトモ
「この異獣は私が片付けるわ」
ミヤ先輩は異能で生み出した剣を構えると、一瞬で異獣との距離を詰めた。
そして、異獣の四本の腕のうち、二本が斬り落とされた。
「まずは二本」
「グルオオオオッ!」
異獣は苦痛に顔を歪め、残った二本の腕を振り回してミヤ先輩に殴りかかる。
しかし、ミヤ先輩は慌てることなく攻撃をかわした。
「遅すぎるわ」
次の瞬間、ミヤ先輩は異獣の背後に回り込んでいた。
そして、剣を一閃させる。異獣の首が斬り落とされ、その巨体が地面に倒れ込んだ。
異獣の討伐は、あっという間に終わった。
ミヤ先輩は異能の剣を消滅させると、僕のもとへ歩いてきた。
「いつも言っているでしょう。あなたは異能使いとして未熟なんだから、無茶をするのはやめなさいって」
「でも、僕もミヤ先輩のように異獣を倒したいんです。誰かを守れるくらいに強く――」
言い終える前に、乾いた音が響いた。
パシンッ!
「なっ……!」
ミヤ先輩に頬を叩かれた。突然のことに、僕は言葉を失う。
「あなたはまだ、自分の実力を理解していないわ。一人で異獣に立ち向かうのはやめなさい」
ミヤ先輩は僕をまっすぐに見つめた。
「私が近くにいたからよかったものの、もし一人だったら、あなたは死んでいたかもしれないのよ」
「…………」
何も言い返せなかった。ミヤ先輩の言うとおりだったからだ。
僕は弱い。
異獣とまともに戦うことすらできない。それどころか、自分の異能がどんな能力なのかさえ、完全には理解できていない。
それなのに、無謀にも一人で異獣に立ち向かった。
誰かを守りたいなんて言いながら、結局は自分が守られる側になっている。
そんな自分が、情けなかった。
「サツキ」
ミヤ先輩の声に、僕は顔を上げる。
「あなたの異能は、使いこなせていないというより……そもそも、どんな能力なのかがわかっていないのよ」
僕の異能は、ほかの異能使いたちとは違っていた。
ミヤ先輩の《新星の剣》のように、明確な形があるわけでもない。
自分で発動させることはできる。けれど、それが何を意味するのか、どう使えばいいのか、僕自身にもわからなかった。
「だからこそ、異獣との戦いを通して経験を積む必要があるわ。でも、だからといって一人で突っ込んでいい理由にはならない」
「……はい」
悔しかった。もっと強くなりたい。
誰かに守られるだけじゃなく、自分の力で誰かを守れるようになりたい。
そして、いつかはミヤ先輩の隣に立てるくらいに――。
「お説教はここまで。異獣の討伐は終わったから、学園に戻りましょう」
ミヤ先輩はそう言うと、僕に背を向けて歩き始めた。
「待ってください、ミヤ先輩!」
僕は慌てて、その後を追いかけた。
僕たちが通っているのは、桜花学園。
異能の適性を持つ者たちが集まる学園だ。
もちろん、学園である以上、普通の学生と同じように授業を受けたり、部活動に励んだりすることもできる。
けれど、この学園が最も力を入れているものがある。
それは――異獣の討伐だ。
烈界から異獣が現れれば、学園はただちに対応する。
異能使いとしての力を持つ生徒たちも、その任務に参加することがある。
僕もまた、異能の適性があると認められ、この学園に入学した。
ただし、僕の異能は特殊だった。
異能を発動させることはできる。けれど、その能力の正体がわからない。
ほかの生徒たちが自分の異能を磨き、実力を伸ばしていくなかで、僕だけが取り残されていた。
そのせいで、周囲からは無能と呼ばれることもある。
それでも、ミヤ先輩だけは違った。
僕が無茶をすれば叱り、危険なときには必ず気にかけてくれる。
今回だって、そうだった。
だからこそ、僕は早く一人前の異能使いになりたかった。
いつまでもミヤ先輩に守られているわけにはいかない。
いつか必ず、自分の力で戦えるようになる。僕もミヤ先輩のように強くなって大切な人を守るんだ。




