エピローグ
エディには大事な日課があった。法務書記官と伯爵家当主という二足の草鞋を履く妻のオーバーワークを止めることだ。
「フェデリカちゃ〜ん? アタシなんて言ったかしら?」
「い、いえ! この資料を確認だけしたら、ちゃんと寝室に行こうと……」
「まさかその分厚い資料全部、とは言わないわよね?」
エディはにっこり笑っているのに、有無を言わせない圧がある。フェデリカは小さくなりながら「わかりました……。片付けて寝室に行きます……」と返事をした。
「分かったわ。ここで待ってるわね」
「ここで、ですか……?」
「ええ。口では片付けると言いながら、また資料を広げて読み始めないとも限らないから」
そう言われてしまえば、前科のあるフェデリカは黙り込むしかない。そそくさと資料を片付けて、二人は夫婦の寝室へと向かう。ベッドに横になったところで、エディはそっと口を開いた。
「最近妙に根を詰めすぎるわよね? 領地で何かあった……ということはないだろうし」
「そうですね。いつ頃悪阻で動けなくなるか分からないため、不安になってしまいまして。動けるうちに進めておかないといけないな、と」
「つわり?」
「はい」
二人の間に沈黙が落ちる。
「……赤ちゃん、できたの?」
「……はい。産婆様の見立てでは、間違いないと」
「聞いてないんだけど」
「先ほど言いましたから。発覚したのも今日ですし」
エディは思わず頭を抱える。
「身重の体で無理をしようとしていたの?」
「……言われてみれば、そうなりますね。……軽率でした」
彼はそっと彼女を抱きしめた。
「なんでも一人でやろうとしないでちょうだい。あなたのことも、これから生まれてくる子のことも、どっちも大事なんだから」
「……はい、肝に銘じておきます」
こくりと頷いた彼女に対し、エディは「お願いよ」と笑う。
「そうと決まれば子供部屋を用意しなくちゃね。おもちゃもいるから、職人を見繕っておかないと」
「エディ様、気が早いです」
フェデリカは小さく苦笑する。
「まだ無事に産まれるかも、男の子なのか、女の子なのかも分かりませんよ」
「ちょっと! 不吉なこと言わないでちょうだい」
エディはそっとフェデリカの頭を撫でる。それが安心につながったのか、彼女は小さくあくびをした。
「さてと、もう寝ましょう? これからのことは明日話し合えばいいんだし」
「それもそうですね。おやすみなさい」
「ええ、おやすみ」
エディはフェデリカの額にキスを落とし、彼女が冷えないように布団を掛け直す。二人の呼吸が夜の静けさに溶けていく中、未来への小さな希望がそっと胸の奥で灯った。
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