25話 少しだけ背伸びして
両家間での細かい調整ののち、エディとフェデリカの正式な婚約が決まった。二人は一年程度の婚約期間を経たのちに夫婦となる。正式発表は伯爵家主催の夜会となることが決定された。
婚約が結ばれてからしばらくした頃。交流のためのお茶会の席にて、エディは恐る恐る口を開いた。
「フェデリカちゃんにとって、法務書記官の仕事がすっごく楽しいことも、辞めたくないことも理解しているわ。だけど、そうね……。せめて婚約発表の夜会が終わるまでは、休暇を取るだとか、時短勤務するだとか、ちょっとセーブかける気はないかしら?」
「意図をお伺いしても?」
「また倒れちゃわないか心配で」
フェデリカは二度瞬きする。それをみたエディは慌てて、「不快な気持ちになったのならごめんなさい」と謝った。
「いえ。心配されたこと自体に驚いただけです」
彼女はそう言いながらも思考を巡らせる。
「以前倒れたので有給が残っているかどうかは怪しいのですが……、時短勤務はどうにかならないか相談してみますね」
「あら、いいの?」
「エディ様に心配をかけることは本意ではないので」
フェデリカの答えに彼は「そう思ってくれるのなら嬉しいわ」と笑う。
「ところで、話が変わるのだけど」
「はい」
「今度の休み、ドレスショップに行きましょ」
「ドレスショップ……ですか?」
思ってもみなかったのだろう。彼女はきょとんとした表情を浮かべた。
「そう。そろそろ夜会のドレスを準備しないとでしょ」
「えっ、準備してくださるのですか」
「当たり前よ。そんな甲斐性なしと思われてたのなら心外だわ」
エディは怒ったポーズをとる。フェデリカは「申し訳ございません」と謝ったあと、「では、予定を空けておきますね」と言葉にした。
◇
次の休日。エディに連れられて王家御用達のドレスショップに来たフェデリカは、その佇まいに圧倒されていた。
「これが……最高クラスのドレスショップですか……」
ディスプレイされているドレスたちはどれもきらびやかで、フェデリカは「こんな素敵なものに、自分が袖を通すのですか……」と物怖じした。そんな折、ふと一着のドレスが目に留まる。それは、ホワイトシルクのデビュタントドレスだった。
ベルラインのスカートに、全体を覆う蔓の刺繍。定番のデザインをしたそれは、フェデリカのデビュタントドレスとよく似ていた。
「なんだか懐かしいですね」
「なんだか懐かしいわね」
声が重なる。二人は顔を見合わせて笑った。
「覚えてる? デビュタントの夜会で一緒に踊ったこと」
「はい。確かあのときは、フィオさんがエディ様だったことに驚いて……。確か、エディ様の足を踏んでしまったような……?」
「あら? そんなことあったかしら? ……あのときのフェデリカちゃんはとってもきれいで。思わず見惚れちゃったわ」
「……似合ってました?」
「ええ。とっても」
きっとエディ様は、いつもみたいなドレスがいいとお願いしても受け入れてくれる。けれども、彼の隣に立つのなら少し味気ないかもしれない。そう考えた彼女はこわごわと口を開く。
「実は……。華やかなドレスに抵抗があったんです」
フェデリカは一度言葉を切る。エディはその先の言葉をじっと待った。
「でも……。エディ様が隣に立ってくださるなら、挑戦してみたくなりました」
「もちろん。すてきなドレス、一緒に考えましょ?」
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