24話 怖いまま、それでも手を取って
エディはフェデリカが泣き止むまで、ずっとそばで寄り添い続けた。太陽が真上に登った頃、ようやく涙が止まった彼女は泣く前よりも多少なりともスッキリとした表情を浮かべていた。
「長々と申し訳ございません」
「いいのよ。スッキリした?」
「……まだ完全に不安がなくなったわけではありませんが……」
彼女はそこで一度言葉を切る。目を閉じて、深く深呼吸をした。
「フィオさんの元に飛び込むなら、怖いままでも大丈夫だと確信が持てました。婚約、受ける方向で調整させてください」
フェデリカは微笑んでそう答える。エディは「ありがとう」と満面の笑みを浮かべた。彼女は立ち上がるとカーテシーをする。
「フィオさん……いえ、エディ殿下。婚約者、ひいては伴侶として、どうか末長くよろしくお願いいたします」
「ええ、もちろん。フェデリカちゃんの怖いこと、悲しいことも、ずっと隣で受け止めさせて」
エディはそれに対して深く頷く。彼はフェデリカの手をそっと取ると、甘く囁く。
「フェデリカちゃん、抱きしめてもいい?」
「ええと、まあ、構いませんが……」
彼女はキョトンとしながらもそう答える。彼はフェデリカの腰へと手を回し、そのまま顔をぐっと近づけた。エメラルドの熱に静かに射抜かれる。
「続けても大丈夫? 怖くない?」
口をはくはくとさせながらも頷くと、彼の瞳がとろりと溶ける。そのまま蜂蜜のように甘い声で彼女に問いかけた。
「キスしてもいいかしら?」
フェデリカは彼の服をぎゅっと掴みながらも、そっと目を閉じた。エディは彼女を安心させるかのように後頭部に手を回して数度撫でる。
そしてそのまま、彼女の唇にほんの一瞬だけ自身のそれを触れさせた。たったそれだけなのに、フェデリカの腰からかくん、と力が抜けた。
「ひゃ……」
「まだ軽く触れただけよ?」
「そう言われましても……」
初めてですから何卒ご容赦を……と呟く彼女に対し、彼は「いいことを聞いたわ」と笑った。あまりの恥ずかしさに彼の胸元に顔を埋めれば、ばくばくと早い鼓動が聞こえてくる。
「……フィ……じゃなくて。エディ様も、緊張されてます……?」
「……し、仕方ないでしょ……。こっちも経験ないの」
フェデリカが恐る恐る顔を上げれば、彼の白い顔が真っ赤に染まっていた。あれほど自分を翻弄した彼の意外な一面に、フェデリカは思わず笑い声をこぼす。
「あら、意外と余裕なのね。手加減は要らなかったかしら?」
「これ以上は立てなくなります!」
慌てて止めるフェデリカに対し、エディは「冗談よ」と笑う。
「もうそろそろ立てそう?」
「えっと、はい。おそらくは……」
その答えを聞いた彼はそっと彼女を解放する。
「まあ、こっちはおいおい慣れていきましょ。……で、いいのよね?」
「は、はい。特に不快ではありませんし……」
フェデリカは所在なさそうにスカートをつまむ。エディは恥ずかしさを逃すように長く息を吐くと、彼女に問いかけた。
「今日はもう帰る?」
「そ、そう、ですね……。そろそろお暇させていただきます」
「そう。じゃあ玄関まで送って行くわね」
エディはそっと手を差し出す。フェデリカはおずおずと、それでも自分の意思を持って手を重ねた。二人は連れ立って廊下を歩く。
ついに一歩踏み出した二人を祝福するかのように、傾きかけた日に照らされキラキラと輝くほこりがあたりに舞い踊っていた。
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