19話 受け継がれる覚悟
父の知らせを受けて領地に戻ったフェデリカを出迎えたのは、侍従にベッドから起こしてもらいながらも元気に受け答えをする父だった。病状の悪化かと心配していた彼女は、父の様子を見て安心したように息を吐く。
「お父様、心配いたしました」
「すまない。暗い話ではない、というのが分かるように軽い文面にしてみたが、その分だと効果はなかったようだな」
彼は穏やかな声で軽く笑う。
「マリーナやモンテフェルトロ卿は息災か?」
「はい。婚約を正式発表したところ、大勢の方に祝福していただきました。二人とも仲睦まじく、相思相愛の婚約者として噂になっております」
二人の様子が想像できたのだろう、彼は「その様子であれば大丈夫だな」と息を吐いた。
「……それで、大事な話とは何でしょうか」
「君に伯爵位を譲りたい」
ついに来ましたか。フェデリカはそれだけを思う。
「主治医の見立てでは『病状は小康状態で、これ以上悪化することはないだろう。だが、これ以上好転することもない』ということだそうだ。君の働きぶりも問題ない、と家令から報告を受けている。そろそろ潮時だろう」
父の言葉にフェデリカは深く頷く。
「承知いたしました。至らぬ点もございますが、領地のさらなる発展のため尽くしていくことを誓います」
真剣な表情で誓いを立てる彼女に対し、父は「落ち着いて欲しい。そんなすぐ、という話ではない」と苦笑を漏らした。
「ところで、君には婚約したいと思う意中の殿方はいるか」
唐突な父の言葉に彼女は目を丸くしつつも、「……婚約を望んでくださる方が、一人だけ。ですが、返事を保留させていただいています」と答えた。
「名前を聞いても?」
「王弟殿下、です」
「……そうか。なら、君の判断を尊重しよう」
「よろしいのですか?」
フェデリカは目を見開く。彼は「当たり前だ」と笑った。
「一年前、君が深く傷つけられたのは私の責任だ」
「そんな。お父様は悪くありません。私が至らなかっただけのことです」
彼女は父の言葉を否定する。だが彼は「ヴァレンティーニの次男坊が、ひいてはヴァレンティーニ家があれほど不誠実だと見抜けなかったのは私だ」と譲らない。
「だからこそ、君には幸せな結婚をしてほしい。君の人生を犠牲にする必要なんてどこにもない。結婚が不要と言うならそれでも構わない」
父は顎に手を当ててしばらく考え込む。部屋の中には重厚な静けさが蔓延していく。その静けさを断ち切るように、彼は口を開いた。
「……一年だ。婚約をしないなら一年後に、婚約をするなら結婚のときに爵位を渡す。それで構わないか?」
彼の確認にフェデリカは深く頷く。父はペンだこの残る大きな手で、その細い肩を軽く叩いた。
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