最終章―07
◇
「随分、今日は機嫌が良いのだな」
「え? そんな、滲み出てますか?」
「あぁ」
阿呆な雰囲気が漂っている。
そのうち花でも見えるかも知らん。
へらへら笑うティムに、顔を引き締めろと言いたいところだが、あまり野暮な事も言いたくはない。
「何はともあれ、良かったな」
「有り難うございます、殿下!」
それはそれは良い笑顔で、ティムが言う。
昔から弟のように思っていた奴が、幸せそうなのは嬉しい事だ。
だが……
「声が大きく過ぎる。あと、職務中だろ」
「はいっ!」
………………三秒後にはもとに戻っているぞ。
ランスローの令嬢・ネルと言えば、父譲りの端正な顔立ちで、女性としても美しいと、社交界では有名である。
しかもスタイルも良いと、浮き立つ輩は多かったが、当の本人は男装の麗人に夢中で、子爵の倅まで断っていた。
その為か、高飛車で高慢な女だという噂もあり、ティムとの結婚も真意を疑っていたが、会ってみると意外と良い印象だった。
俺の嫁になるのでは?と、噂があったらしいが、それも納得できる。
彼女には、度胸も聡明さも揃っていた。
「良い嫁がきて良かったな」
抜けているティムを、しっかり導いてくれるだろう。
「有り難うございます。あっ!譲りませんよ」
本当に阿呆だな。
「そうなのか? 残念だな」
だが、ティムの抜けている部分は嫌な感じがしない。
むしろ、今のようにからかいたくなる。
「え?!殿下、ネルを狙って……」
こんな風に顔面蒼白になって……本当、おかしな奴だよ。
「どうだかな」
ティムは、そんな事ないって~と自分で言い、「ですよね?!」と、開いた目でこちらを見る。
もう我慢しきれなくなって笑っていると、漸く分かったのか、頬を染めたティムが恨めしそうな顔を俺に向けた。
「殿下、俺で遊ばないでください」
「あー、おかしい。いつまで経っても良い玩具だよ」
「それ!そのせいでネルに勘違いされた気もしますからね!」
「どういう意味だ?」
「ネルに、殿下は俺を玩具だと思っていると言ったら、どうやら卑猥な意味に捉えたようで……」
「……俺とお前で?」
コクッコクッとティムが頷く。
「彼女の夫は、お前以外に務まりそうもないな」
「え?どう言う意味ですか?」
「お似合いって意味だよ」
ティムは嬉しそうに口元を綻ばせた。
俺は机の書類へと視線を落とす。
「来月にでも発表されるが」
この報告書、誤字があるな。
俺は誤字をペンで囲む。
「俺も結婚が決まった」




