最終章―02
近くにファンキンスの邸宅があるとの事で、初めてファンキンス子爵の邸宅の門を潜る。
生家のランスローとあまり見た目は違わない。
「ネルさん、こちらにどうぞ」
使用人が置いた椅子とテーブルの側で、ベアトリスが私を呼ぶ。
「久しぶりに劇場に来ていたのね。私も観劇が趣味ですの」
ベアトリスは椅子に腰かけると、使用人がホットチョコレートをカップに注ぐ。
何とも言えない独特の香りが、湯気と共に立ち込める。
「そうなのですか」
知らなかった。今までにも同じ空間で観劇していたかも知れないのね。
「噂で、結婚するまで禁止されていたとか……」
カップに息を吹きながら、ベアトリスは上目遣いにこちらを見ている。
流石、社交場によく行っているだけはあるわね。
「えぇ。あまりにもあしげなく通ったものですから……」
「観劇の為にご結婚を?」
……そうね。実際、それもあるわね。
「ふふっ、そんな顔をされないで。私ずっとそう思ってましたの。でも、昨日の貴女を見ていたら、騎士様の事を愛してらっしゃるようで安心しましたのよ」
安心?
いえ、そもそも愛してるってほどでもないような気がしますわ。
「男爵令嬢である貴女が、殿下と結婚される事はないでしょうけど、殿下が気に入ってしまったら釣り合うような家の養女となって……と、いう事はあると思ってましたの」
それで突っかかってきていたのね。
「ベアトリス様は殿下を慕っていますのね」
「むしろ、慕っていないのは貴女だけではなくて?」
ベアトリスはクスクスと笑う。




