1章 ー04
「ネルにとっても悪い話じゃないだろ?」
自分の世界に浸っていたけど、ティムの声で現実へと意識が戻る。
ティムはコバルトブルーの瞳に不安を滲ませている。
「そうねぇ……」
実は私、結婚適齢期をやや過ぎている。
でも仕方ないじゃない。どの男性も私好みじゃなかったのだし。それに問題外の人もいたわ。
「ランスロー男爵に結婚相手が決まるまで観劇を控えるよう言われているとか……」
誰がその情報をティムに渡したのよ。
歩きだしたティムが私の隣で足を止める。
「要するに、ティムは殿下の元に戻る為、私はアラン様を好きなだけ愛でる為、という契約を結んで結婚するって事ですわね?」
「え?アラン様って?」
ティムが目をぱちくりさせる。
「知りませんの?!国営歌劇団の男役をしている月組の中で最も人気のある方なのよ?!中性的な顔立ちで、煌めくブロンドの髪に深い湖のようなグラデーションのある青い瞳……」
思い浮かべたらうっとりしてしまうわ。
「あはは。今も男装の麗人が好きなんだな」
ティムは昔から変わらない大型犬を思わす人懐っこい笑みを浮かべた。
「そうですわね。悪いかしら?」
前に一緒に観劇した男性にアラン様の事を熱弁したら、縁談を断られたけれど、好きなものは好きなのよ。仕方ないじゃない。
「安心した。見た目は変わっても、中身は変わってなくて」
ティムは変わらないわね。
その笑みも、ゆったりとした時間の流れの住人かのような雰囲気も、何も変わらない。
「私は変わったかしら?」
「うん……そうだね。女ぽくなったよ」
女ぽく……。




