4章―09
◇
「キャロラインちゃん、待って!」
走る彼女にそう言うと、足を止めて振り返る。
彼女の瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれていた。
「ごめんね、ネルがキツイ事でも言った?」
ネルは昔から言葉が素直すぎるんだよ。
キャロラインちゃんの涙を拭うと、彼女はううんと首を振る。
「違うんです。私、言われて当然の事だったのに、分かっていたのに……」
う~っとまた涙がこぼれる。
「泣かないで。ほら、道の脇に行こう?」
道の真ん中だと目立つし……。
「これ食べて気持ち落ち着かせて」
はいっと今買ったばかりのフライを渡す。
「それじゃまた……」
「もう、行くの?!」
「え?だってネル、待たせてるし……」
また変な奴に絡まれたら嫌だし……。
さっき自分で"俺の妻"とか言って恥ずかしかった!
世の男性は皆こんな恥ずかし心境なのかな?!
でも、ちょっと弱気なネル珍しいし、可愛い!
早くネルと元に行きたい!
「もう少しだけ一緒にいてはダメですか……?」
う~ん……。
「遅くなると院長に怒られるよ?お使いの帰りなんでしょ?」
「うん……また、来てくれる?」
「勿論。院長にもよろしくね」
「約束ね」
そう眉を下げて言うと、とぼとぼと彼女は歩き出した。
う~ん……もう十六歳だし、放っておいて良いのだろうけど、逆に十六だから途中まで送る……?う~ん…………。
今日の俺は騎士として来ているんじゃないから、送らなくても良いよね?
ごめんねとキャロラインちゃんの背中に頭を下げてから今来た道を戻る。
……でもこの後、俺は戻らなければ良かったと思う光景を目にする。
男爵令嬢であるネルが既婚者であるアントニオさんに寄りかかるような形で話をしていたのだった。
一応、令嬢というものは不用意に男性にくっつかないものだと聞いているんだけど……。
二人はやっぱり特別、仲が良いのかな?
扇子でネルは口元を隠していて、何を話しているのか全く分からないけど、時折ネルは満面の笑みをアントニオさんに向けている。
あっ!
ネルに人がぶつかりそうになった今、そっと彼女を自分側にアントニオさんは寄せた。
それが自然過ぎて、俺は足早にその場を離れた。




