4章―04
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「朝は散々でしたわ」
別荘から港の市場までの道中、馬車の中でティムに愚痴を溢す。
「ネルが階段を駆け足で下りたりするから」
貴方に原因があったと思うのだけど。
能天気なティムに小言を言おうとした時、馬車が止まった。
いつの間にか防風林を抜け、市場の入り口に到着したらしい。
ティムが先に下り、手を借りて馬車を下りる。
風に運ばれ海の匂いがする。
すぅっと肺の奥までその空気を吸い込む。
海の匂いは嫌いじゃないわ。
「屋台を見に行こうよ!」
ティムが目を輝かせて屋台が並ぶ方を指す。
「そうね」
折角のお出掛けですもの、機嫌を悪くしていても面白くないわよね。
「ふぅ」
目をつむり、軽く息を吐いて気持ちを切り替える。
……もういませんわね。
人を置いて行くのが好きな人だとは知っていましたけど、こんな人の多い人所でも置いて行くだなんて……。
「誰かと待ち合わせかい?綺麗なお嬢ちゃん。来るまでおじさんの船で採れた魚でも食べないかい?」
酔っているようね。
近付いてきた男と距離を取る。
「澄ました顔と態度が良く似合ってて、おじさん困っちゃうなぁ」
なんなの、この人。一生困っていれば良いわ。
無視して背を向けようとしたら「釣れないなぁ」と、肩を捕まれた。




