2章 ー03
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「この後、お茶でもどうかしら?」
私が目を覚ました時から付いている寝癖をそのままに登城の為、邸を出るティムを見送ると、義母様にそう声を掛けられた。
セレナ・ライガー。
ティムのお父様が一目惚れして、この家に嫁いできた元男爵令嬢。
ティムと同じライトブラウンの癖のある髪を持ち、全体的にティムと似ている。
「勿論ですわ、お義母様」
「まぁ!お母様ですって!聞きまして?!」
お義母様は侍女達を振り返り見る。
うん、うん、と微笑ましそうに侍女達は頷いている。
「嬉しいわぁ。私ずっと貴女が嫁いで来てくれたら……と、思っていましたのよ。でも、ほら、美しい人がお好きだと耳にしていたものですから、言えませんでしたの」
お義母様は扇子で口元を隠しながらもニコニコと笑みを湛えている。
私が幼い頃に初めて会った時もティムのお母様はにこやかな笑みを浮かべていた。
むしろこの人が目を怒らせているのを見たことがないわ。
「そう言って頂けて光栄です」
私はドレスを裾を持って頭を下げた。
「そんな事しないでちょうだい。これからは私をイサベルだと思ってね」
そう言ってお義母様は玄関ホールに背を向け、中庭に目を移した。
お母様を"イサベル"と、呼びよてにするくらいお義母様達は仲が良い。
それなのに、縁談の話が上がらなかったのは、私がアラン様好きだからなのね。
悪くない顔立ちだけど、麗人には程遠いティムの顔を思い浮かべた。
「若奥様、用意が出来ましたわ」
「ありがとう」
綻んだ口元のままそう言ってくれた侍女にお礼を述べる。
「まぁ!本当に美しく、お優しい方!」
ただお礼を述べただけですのに……。
普段の表情が固いのかしら?
案内されるままに椅子に腰かける。
ライガー邸のパティオの中央にはオレンジの木が植えてある。その木陰に椅子とテーブルが置かれ、私とお義母様は向かい合って座っている。
テーブルにはハーブティーが注がれたカップがあり、お義母様が匂いを嗅いでいた。




