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魂の泉へ向かう道

「とても、救われたよ」

 自室の寝床に横たわり、ヒネはゆっくり目を開けた。身体がひどく重く感じ、背中と腰に痛みを感じるのに寝返りを打つことすら億劫に感じる。

 ヒネは先ほど宇宙船で出会ったシュガの言葉を思い出していた。

「ラーヤは1,200年ほど前に亡くなった私の妻だ」


 ラーヤは千年以上も前に亡くなっているのだ。

 ヒネは母に会えないかと、たびたび機会をうかがっては魂の泉へと向かう道を訪れている。もうずっと前に亡くなった母に、未だに逢いに行こうとするのはなぜか? それはヒネの中に、ひとつの推測があったからだ。あの魂の泉へ向かう道には、時間の概念がないのではないか? ということだ。

 それについて今までは確信を持てずにいた。しかし、ヒネがシュガの妻・ラーヤに会ったのは、そんなに前のことではない。でも、彼女は千年以上前にすでに亡くなっていたのだ、ということは……。

 ヒネは、ふっと笑みを浮かべる。


 あのとき、ラーヤと魂の泉へ向かう道で別れたあとで、ヒネは最後に一度だけラーヤの方を振り返っていた。そのとき、ラーヤのそばには、それまではいなかった人物が立っていたのだ。その人は鎖骨あたりまでまっすぐに伸びた銀色の髪に、翠緑色の瞳をした男性であった。その姿は、今しがた出会ったシュガによく似ていたように思う。

 きっとこの先、それは何千年・何万年先になるかはわからないが、シュガが今の人生に満足して魂の泉へと還る選択をしたときには、きっとあの場所でまたラーヤと再会するのだろう。そして、共に魂の泉へと還るのだ。 


 どのみち二人は、きっとまた会える。


 それでも……と、ヒネは思う。

 この先あとどれくらい残っているかわからないシュガの人生の中で、ラーヤの言葉が彼の支えとなり、生きる糧になってくれるのなら、ラーヤの言葉をシュガに伝えられてよかったとヒネは思った。


挿絵(By みてみん)



 ふと、ヒネはカダに送信した報告に返信がきていると気がついた。女性師範のナウルから預かった「おつき星」に関する報告だ。

 だが返信を開いてみれば「承知いたした」という短い一文だけがあった。ヒネが送ったのは、パムゥの大陸が間もなく沈み、人々の命も危ういという衝撃的な内容である。それにもかかわらず、たった一言だけの返信に、ヒネは不信感にも似たざわめきを胸の中に覚える。

 遠くの空で、爆発音が轟く。たちまち雨音はいっそう大きくなり、ヒネの鼓膜を不規則に振動させる。

「私たちはカダにすべてを託した」ふいにシュガの言葉が頭を蘇る。

 やはりカダ様は……ヒネはそう思いながらも、あまりの身体の重たさに目を開けていることすらできず、そのまま深い眠りへと落ちていった。



読んでいただき、感謝します。

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