招かれざる侵入者
どうやら侵入者は「新しい者たち」の眠る部屋にいるらしい。
「またいつもの若者か?」
シュガは呆れた思いで心当たりのある場所へと急ぐ。
この宇宙船は巨大であるため、居住エリアによっていくつかの区域に分け、監視体制を敷いている。物理的な侵入を阻むすべはいくらでもある。しかし意識体で侵入される場合、それを阻む機械的なシステムはいまだ構築できていないのが現状である。そのため、複数のシュバウル人が意識の壁を張り巡らすことで、宇宙船全体を監視しているのだ。
だが仲間の中に一人だけ、かなりものぐさな者がいる。
シュバウル人は専用のカプセルに入ることで、体の汚れや疲れを取り除くことができる。そのため本来は眠らなくてもよいのだが、娯楽の一環として眠ることもある。当該のものぐさなシュバウル人は何より眠ることが好きで、日々の日課にしているらしい。
シュガにも、幻影の“ラーヤ”と会話をするという日課ともいえる趣味があるので他人のことはいえない。だが、意識を完全に飛ばすまで寝入ってしまうのは、さすがにいかがなものかと思う。再三にわたって注意しているが、当の本人は、何度言われても改める様子がない。
その“ものぐさ者”が惰眠を貪る時間の隙をついて、この宇宙船にしばしば忍び込む者が現れたのは最近のことだ。忍び込むといっても、実際には意識だけで侵入してくる。パムゥの神呼と思われる人懐こい顔の、筋骨たくましい青年だ。彼もまったく懲りない性格なのか、何度厳しく追い払っても、こうしてたびたび侵入してくる。
ため息をつきながらシュガは当該の場所へ到着した。
だが、そこにいたのはいつもの青年ではなく、見たことのない女性であった。実体はない。どうやらこの女性も、意識だけで侵入してきたようであるとシュガは見て取った。
シュガはしかし、その女性の姿を見た瞬間、自身の心臓が跳ねる思いがした。かつて、自分の元から去って行った恋人に似ている気がしたからだ。容姿がではない、魂の音色と表現すればいいのだろうか。実体がない意識の状態とはいえ、いや、意識の状態だからこそ、その魂の特徴は一層はっきりと感じ取れた。
しかし、シュガは余計な想いをすぐさま頭から追い払い、女性に声をかける。
「ここで何をしているの? 君は、パムゥの神呼かい?」
“新しい者たち”を夢中で見入っていた女性は、びくりと肩を震わせ固まった。やがてゆっくりとシュガの方を振り返る。
だがシュガを目にすると、覚悟を決めたような目つきになり、女性は口を開いた。
「さようでございます。ヒネと申します。あなた様は……シュバウル人でいらっしゃいますか?」
*
「あなた様は……シュバウル人でいらっしゃいますか?」
ヒネが問うた目の前の男性は、鎖骨までまっすぐに伸びた銀髪に、翠緑色の瞳をした青年だった。柔らかい素材と思われる長羽織の下に、美しい刺繍が施された衣を着ている。しかし、首の辺りを見れば、肌と衣の境目がよくわからない、不思議な装いである。全体的に、ヒネたちパムゥ人が着用している衣とは大きく異なり、体の形に沿った造りのようである。
男性はヒネの問いかけには答えず、
「ここは君の来る場所ではないよ。今すぐ帰りなさい。」
静かに優しくそう返した。
「この者たちは何なのです? あなた方は、いったいここで何をされているのですか?」
銀髪の男性はヒネを見つめたまま何も答えてはくれない。だがヒネは怯まず続けた。
「これはどう見ても、人工的に人を飼育している光景です。それも遺伝子操作を行った人間のようにしか見えません。あなた方はその……」
ヒネは一瞬ためらってから、しかし意を決したように言葉を続けた。
「ど、奴隷となる者たちをつくっておいでですか!?」
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