宇宙船で眠る者たち
「ど、奴隷となる者たちをつくっておいでですか!?」
「人」が、奴隷となる「人」をつくるなど、考えただけでもおぞましい。ヒネの唇は少し震えていた。
「なぜそう思うのだ?」
ようやく口を開いた男性が問い返す。
「今しがた彼らと会話を試みてみましたが、言葉を話せぬようです。いや、話せないというか、そもそもご自分の状況をまるで理解していないようです……。それなのに、どうやら筋肉量は我々よりも多いようではございませんか。考えられるのは、もの言わぬ労働力……つまり奴隷です!」
ヒネは、目に力を込めて男性を見つめる。答えるまでは決して帰らぬといった様子である。
男性は小さく嘆息し、短く答えた。
「奴隷ではない。我々のかわいい子供……“新しい者たち”だ」
「新しい、者たち……?」
ヒネは目を丸くして言った。
「君の言うとおり、彼らはまだ言葉を知らない。何しろこの世にまだ生まれていない、赤子と同じなのだから」
男性は静かに、優しい口調を変えることなくヒネに答える。
「どういうことですか?」
だが男性は、ヒネのその問いには答えようとはしない。
「そもそも見た目も変です。なぜこうも肌の色がさまざまなのでしょう? 肌だけではなく、髪の色や目の色まで……」
ヒネはうろたえたように周囲を見回す。
「シュバウル人たちも見た目はさまざまだよ? 肌の色、髪の色、目の色……それぞれ違いはあれども、見た目の違いなど些細なことでしかない」
男性の淡々とした返しにヒネは戸惑った。男性は続ける。
「でも、そうだね。新しい者たちにとっては、見た目の違いは重要な“問題”になるだろうね……」
ヒネの目に改めて疑心が宿る。
「いったい、どういうことですか?」
男性は愁いを帯びた優しい眼差しで、まっすぐヒネを見た。
「争えるように、だよ」
短くきっぱりと男性は言った。
「え?」ヒネは耳を疑い、たじろぐ。
「そしてより長く、少しでも長く……生きながらえるように」
切なそうに視線を下方へずらした男性に、ヒネは眉をひそめる。
いったい、この人は何を言っているのだろう……。
「争えるように? より長く、少しでも長く生きながらえるように?」ヒネは困惑しながらも、男性の言葉を頭の中で何度か反復してみた。しかし、やはり理解できそうにない。
「もう帰りなさい。君が大陸の神呼ならば、カダ……カダを知っているでしょ? 私たちはカダにすべてを託した。あとは彼に聞くがいいだろう」
男性はそう行ってヒネに背を向けた。もう話をする気はないらしい。
カダ……その名前に、ヒネの心臓がぴくりとはねる。やはりヨヲセの言うとおり、カダが策謀に加担しているというのだろうか? それとも、そもそも策謀を巡らせている首謀者が、カダだということだろうか……。
ヒネは、このままでは帰れないと思い、意識の状態のまま、過去を探ることにした。この宇宙船の空間に己を溶かし、時を遡りながら、あらゆる場面を読み取っていく。宇宙船は、この数年間、ほとんど代わり映えのない時を刻んでいたようだ。カダがこの場所にいた、あるいは訪れた「過去」があるなら、そんなに前ではないはずだ。しかし、いくら遡っても見つけられないヒネは、やり方を変えることにした。
カダをしっかりと意識で捉える。長い黒髪、くっきりとした瞳、そして紫紺に金色が瞬く魂の音色。
――魂の音色。
「いた」ヒネは、カダを捉えた。先ほど目の前にいた、銀髪の男性と透明な壁を挟んで、なにやら会話をしている。
毎朝のように聞いている声が響いた。
【シュガ殿、そなたらは……】
「帰りなさい」
突然の、きっぱりとした澄んだ声に、聞き馴染のある声はかき消された。
拡張されていたヒネの意識は、「今この時」に収縮され、再構築される。目の前には、先ほどの銀髪の男性がいた。カダと、話をしていた同じ男性で間違いない。『シュガ殿、そなたらは……』一瞬だけ聞こえたあの声は、カダ様で、間違いなかった。
「もう、話すことは何もないよ」
何かを言葉にしようとしたヒネの意図を先回りするかのように、銀髪の男性が静かに言った。
ヒネは逡巡したが、彼から聞けることはもうないだろう。確信に変わってしまった疑念だけを手土産に、ヒネは自室へ戻ることに――。
しかしそこで、ヒネは、はたと思い当たり、銀髪の男性を振り返った。
「シュガ……」
背を向けて、立ち去りかけていた男も、ゆっくりとヒネを振り返った。
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