ヨヲセの証言③
「中には、人がいた。しかも大勢だ。だけどみんな……」
ヨヲセはそう言って、目を伏せる。少し顔色が悪いようにも見える。
「みんな……なんですか?」
ヒネは続きを催促するように言った。
「みんな寝てるんだ。しかも、ガラスの筒のようなものに入れられて……あれは、あれは何と言ったらいいのか」
そう言ってヨヲセは目を泳がせたあと、ヒネの目を見据える。
「飼育……いや、むしろ培養という方がふさわしいように見えた」
ヒネの肌が静かに粟立つ。
「それはいったい……誰で、誰が、どのような……」
混乱したヒネは、うまく言葉を出せない。
「私も当然思った。この者たちはいったい何者で、なぜこんな所にいるのだろうと。そこで、その場に起こった過去を探ろうと試みたんだ。だけどほら、私は残念ながら未熟者だから、なかなかうまく魂の泉……過去の状況をたどれなくて。それでも一瞬だけ、一瞬だけだったけど……あれは間違いなく、カダ様だった」
ヒネは鋭い視線をヨヲセに向ける。しかしヨヲセは、ひるむことなくヒネの視線を受け止めて続けた。
「カダ様がいたんだ。過去のどこかで、あの場所に。だから私は……でたらめで言っているわけじゃない」
ヒネは、なおもヨヲセに鋭い視線を向けたまま言った。
「教えてください。いつ、どこを通れば、その宇宙船へ乗り込めますか?」
ヨヲセは驚いて目を丸くする。
「まさか、ヒネも行く気か? あそこは、なんというか……あまりお勧めはできんぞ? 銀髪の、とてもおっかない方がおられるんだ」
「構いません、教えてください」
突然ひるんだように言い淀むヨヲセに、ヒネは食い下がる姿勢を見せた。
ヨヲセは鼻をかき、しばらく逡巡したのち、諦めたように言った。
「じゃあ、言葉で説明するのは難しいから、私の記憶をそのまま送ろう。それでいいか?」
ヒネは少し戸惑ったが、了承した。
「じゃあ、私は午後の職務に戻るから」
ヨヲセは、そう言って食堂から出て行った。ヨヲセを見送ったヒネは「さあ、どうしたものか……」と、椅子に座り直した。
ヨヲセは先ほど、しばらく時間を使って、自身の記憶をこめかみの電子機器に情報として落としてくれた。だがヒネは、脳内で受信した情報を開くことに躊躇する。
この手の情報を開くのは緊張するのだ。「この手の」というのは、個人の脳内映像をそのまま記録した情報のことである。
パムゥでは、生まれて間もなくのころ、ほとんどの者が小さな電子機器をこめかみに埋め込まれる。人体に影響はないとされる、けしつぶよりもさらに小さな電子機器だ。
その大きさからは想像もできない高性能な電子機器は、あらゆる情報をやりとりでき、社会的獲得点数や各種受給権の管理・運用にも使われる。
そして内蔵された便利な機能の一つに、思い描いたことをそのまま保存できるというものがある。しかし、この映像は大抵の場合、曖昧でおぼろげなことがほとんどだ。そのため、他人が見たところで意味がわからない映像であることが多く、誰かに伝えるためのものとして記録するには、慣れか才能が必要だ。
だがヒネが緊張するのは、映像が不鮮明だとか、そういった理由ではない。この「思い描いたものをそのまま保存した情報」というのは、神呼や審神者が受け取る場合、相手の考え・本音・胸のうちといった「知らずともよいこと」まで読み取ってしまうことが多々ある。情報を送った本人がいくら隠そうとしても、やはり、わずかにこぼれてしまうのが一般的なのだ。相手の本音や本心を意図せず知るのは、受け取る側として心苦しいし、場合によっては自分が傷つく。
しかしヨヲセも神呼だ。ヒネは、ヨヲセが自分に何かしら思うことがあっても、最大限の配慮はしてくれたはずだと信じて覚悟を決める。仮に、何かよくないものを捉えたとしても気にしないようにしようと自分に言い聞かせ、ヒネは送ってもらった情報を開いた。
しかし結果的に、ヒネは絶句することになった――
ヨヲセの想起した情報は、意外なほどに鮮明だった。はっきりとしたわかりやすい映像は、まるで撮影してきたかのようだ。ヨヲセは、物事を鮮明な映像として、頭で思い描く才能があるとヒネは感心した。
だが絶句したのはそこではない。「なんなのだ、これは……」わざとなのか、天然なのか? ヒネは、半ば呆れて最終的に噴きだしてしまった。
ヨヲセから送られてきた情報は、その見事な記憶映像とともに、隠すつもりが一切ない“焦がれるようなヒネへの想い”であふれていた。
誰かが席を立つ。椅子と床が擦れる乾いた鋭い音が、食堂の壁に反響する。
映像を確認し終わったヒネは、カダを擁護し、椅子を倒した先ほどの自分を思い出す。あのときの、頬を張られたようなヨヲセの顔――。
ヒネは自分の胸が痛むのを感じた。
だが、このようなことをしている場合ではないと、ヒネは気を引き締める。
意識だけで宇宙船に乗り込めば、凄まじく体力を使うのは明白だ。ヒネは余計なことを頭から追い払い、すっかり冷めた甘酸っぱい香りを放つ膳に箸を伸ばした。
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