ナウラの歎願(たんがん)①
突然、予期せぬ者からの報せを受けたヒネは、急ぎ返信するとともに談話室へと向かう。
「確かあそこならあったはず……」談話室に到着すると、ヒネの予想どおり、目的のそれは談話室の一角にあった。
談話室は、皆の職務が終わる夕方から夜にかけて、時には入室すらままならないほど混みあう。だが午前である今の時間は、談話室に人の気配はほとんど無かった。
ヒネは談話室に入るなり、奥の長机へとまっすぐ進んだ。長机には等間隔に間仕切りが置かれ、その間には映像を撮影できる機器が置かれている。これは、離れた距離にいる相手と顔を合わせて話すために使うものだ。こめかみに埋め込まれた電子機器とこの撮影機器を無線でつなぎ、話したい相手と通信することで顔を見ながら話すことができる。相手の映像はこめかみの電子機器から脳内に直接送られるので、映像を見るための特別な機械は必要ない。
ヒネに通知を送って来たのは、かつてヒネが慕っていた化学分野の女性師範であった。名前をナウラという。いったい何年ぶりであろうかと、ヒネは嬉しくなった。
久しぶりに連絡をもらったナウラの用件は、「ヒネと話がしたい。できればなるべく早い方がよい」というものだった。
ヒネは、これからすぐ対応できる旨を返信し、急いで談話室へと駆け込んだのである。
「しばらくぶりでありますね、お元気でしたか?」
数年ぶりに顔を合わせた女性師範のナウラは、ヒネの記憶より年齢をいくらか重ねてはいるが、かつてのままに凛とした様子で画面の向こうに座っていた。
「ご無沙汰しております、ナウラ様。ナウラ様こそお元気でいらっしゃいましたか?」
二人は久しぶりの再会を喜びあい、しばらくお互いの近況を伝えあった。今はスベラギの塔に身を寄せていることをヒネが伝えたところで、ナウラの顔が引きしまる。
「そう、実はその話をリタから聞いて、今日はこうして連絡をさせていただいたのです。」
ヒネは少し驚く。リタとは異母兄弟だが、仲がいいとは決していえない。そんなリタがナウラに自分の話をしたのが意外だったのだ。
「なんでも今はカムイクジナに所属しているのだとか」
ナウラの言葉にヒネは少し目を伏せる。
「ええ、ただ正式な組織人ではないのですが」
そう言うとナウラは少し苦笑した。
「どこでも最初はみな、そういうものですよ」
そう言ったあと、ナウラの表情にやや影がさす。
「正式な所属員でないとなると、やはりカダ様に直接お会いする機会もないのでしょうか?」
ヒネは目を上げる。なぜカダなのだろうと疑問に思いながらも
「いえ、カダ様とは……その、お話しする機会は、ままあります」
“ままある”というのは正確には嘘だ。実のところ、ほぼ毎朝のように会って話している。
「それならよかった、お伝えしていただきたいことがあるのです」
『よかった』という言葉とは裏腹に、ナウラの表情は硬く険しくなった気がして、ヒネは戸惑う。
「まもなく、パムゥの大陸は沈みます」
突然放たれたナウラの言葉に、ヒネは固まった。
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