ガルシャを送る音叉の音
翌朝になって、ガルシャは自宅で冷たくなっているところを発見された。その死を、「自らの最期まで予言どおりだったのか」と誰もが驚いた。
ヒネが対面した亡骸は、揺り起こせば起きてくれそうな、昨日会ったままのガルシャの姿であった。
弔いの儀は、生前のガルシャが自ら手配していたこともあって、直ちに行われた。そして亡骸は、その日のうちに荼毘にふされることとなった。
ガルシャが手配した弔いの儀は質素なものであったが、カムイクジナのミコト・カダの命で儀式は荘厳なものと取り換えられた。一階の干し場を貸し切って行われた儀式は、少しでも多くの者に偲んでもらえるようにというカダの配慮である。
「こんなに派手にするこたあないだろうにって、ババ様の声が聞こえてきそうだな……。案外、まだその辺をうろうろしてるんじゃないか」
ヨヲセは、いつものようにゲンコツが飛んでこないかといった感じで辺りを見やるが、その瞳は潤んでいる。
「お師匠様は、とうに魂の泉へと発たれているのではないでしょうか」
ヒネもやはり涙で瞳を潤ませながら、微笑んで返した。ガルシャが何事にも執着しない、気っ風のいい性格であったことは、付き合いの浅いヒネでもよくわかる。
「お師匠様は昨夜、元恋人という方にお会いできたのでしょうか……」
薄紅色に輝く空を見上げながら、ヒネは祈るような気持ちでつぶやいた。
火葬場はアマトの都市のヒガシ側、飛行艇の発着場の先に存在している。火葬といっても実際は、ラーヨウの光を使った専用の炉で焼却される。
野辺送りの際には、神呼・審神者・見習いの者ら300名余りをはじめ、二万を超えるスベラギの塔の住人が、干し場だけでなく各階の外階段や窓辺に立ってガルシャを見送った。
出立の合図とともに、神呼の必須道具である音叉が、清涼な音を高らかに響かせる。無数に奏でられた高低さまざまな音色はさざ波のように広がり、しだいに共鳴しあいながら、やがて一つのうねりとなって天へ昇っていく。
ガルシャの旅路は厳粛に、そして華やかに見送られた。
逝去ののちに公開されたガルシャの社会的獲得点数は非常に高く、ヒネもヨヲセも驚いた。
さらにガルシャが享年96歳だったと知って、一層驚いた。しかし社会的獲得点数は、生存する限り累積されるものなので、その得点の高さは納得できるものである。
弔いの斎一色となったその夜は、食堂でも談話室でもガルシャの思い出ばなしに花が咲いた。カムイクジナのみにとどまらない、その影響力と人望の厚さには、ヒネもヨヲセも驚かされた。食堂や談話室からあぶれてしまった者たちは、季節がいいこともあり、干し場の隅に設えられた卓と椅子に流れ込み、酒を酌み交わしている始末である。
ヨヲセもそのうちの一人で、珍しく酔っぱらっていたかと思えば、知らぬうちに卓に突っ伏して寝てしまったようだった。暖かくなったとはいえ、夜の風はどこか冷える。ヒネは持参した薄手の上掛けを自分とヨヲセの背中にかけ、瞬きあぐねる星々を眺めながら、いつまでもガルシャを偲ぶのであった。




