ヨヲセの秘策③
いきなりバカ呼ばわりされたヨヲセだが、本人は悔しがるでも恥じらうでもなく、頭をかきながらけろりと返す。
「あれ、そうですか? 秘策だと思ったんだけどなあ……」
「違うわ! その秘策は……いや秘策でも何でもない。神呼にとっちゃ、そんなのは基本中の基本だ。だけど、ヒネには難しいがヨヲセに簡単なのは、ヨヲセがバカだからって話さ」
ヒネとヨヲセは、互いに目を合わせる。
「ではやはり、ヨヲセの秘策は有効であるとおっしゃるのですね」
ヒネはガルシャに確認を取ったあと、訪ねた。
「でもそれならなぜ、ヨヲセには簡単でわたくしには難しいのでしょう」
ヒネは眉根を寄せて考える。
「いいかい? それにはまず、この世界の仕組みから理解する必要がある。まずヒネよ、あんたは魂の泉で過去のみならず未来もたどれるだろ? 過去はすでに起きたことだから、それをたどれるのは理解できるだろうが、なぜまだ起きてない未来までたどれるんだい?」
ヒネはそっと顎に手を置き、考えられることを口にした。
「やはり、未来はすでに決まっていると考えるのが妥当かと思います。」
するとガルシャはニヤリと笑って言った。
「半分当たっているが、半分は間違ってるね」
「と、おっしゃいますと?」
ヒネは顎から手を放し、身を乗り出した。
「未来は過去と同じくすでにある。だが決まっているのとは違う、無数の未来が無数の過去と同じく、始まりから終わりまでずっとそこに、ただ存在しているのさ」
ヒネは困惑して眉根を寄せた。ヨヲセにいたっては、口が半分開いている。
「そして魂の泉から別れた意識のどれか一つがそれを観察する瞬間にのみ、それが『現実』として、さらには『今』として実在できる」
そこまでガルシャが言ったとき、唐突にヨヲセが「あっ」と声を上げた。
「その意識のどれか一つってのが、ひょっとして自分ですか?」
「そうだ、バカ弟子よ。たまにはやるじゃないか」
ガルシャが褒めると、ヨヲセは嬉しそうに頭をかいた。
「つまり自分が見ている『今』という現実は、自分の魂、あるいは自分の意識、“ただひとり”が観察している世界ということになる。そして我々が魂の泉でたどる『誰かの記憶』はかつての誰か、あるいはこの先の誰かが観察した『今』の記憶であり、それがいかに鮮明で現実感のあるものであったとしても、魂の泉をたどって視た者の『現実』ではない。」
ヒネはガルシャの話を聞きながら、たしかに思い当たる節があると考えていた。
魂の泉をたどるとき、それはときにおぼろげであったり、逆に鮮明であったりとさまざまであるが、いずれにしてもヒネが介入することはできない。あくまで観察者、観察者というよりは傍観者として眺めていることしかできないのだ。
「ヒネはさっき、過去と遠い未来はたどるのが簡単だと言ったね? だけど過去と遠い未来では、その理由が少し異なるのさ。」
――異なる?
いったい、どういう意味だろうかと、ヒネはガルシャの次の言葉を待った。




