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きょうだい弟子・ヨヲセ③

「おられますよ?」

 ヒネは冷ややかな声でヨヲセに言う。

「え?」

 ヨヲセがきょとんとした顔で問うので

「あの方の恋人でございます、ほかに女性がおられます。同じ家に住む別の同居人の方で、新参のお方のようでございますね。御名前は……」

 ヒネがそこまで言うと、ヨヲセは

「ヒネ様よ……」

 と諭すような声音でヒネを呼び止めた。

 ヒネは、はっとする。

 そうかヨヲセも神呼みこだった、知った上でのことかと思い至る。この世には知らない方がいいことも多々あるのだ、いずれ時が来れば、あのご婦人とその恋人も落ち着くところに落ち着くのであろう。ヒネはそう気がついて自分の至らなさを反省した、のだが、しかし。

「そなた、優秀か!」

 ヨヲセは参った、というように額にぴしゃりと手を当て

「私には全然見えなかった。あ~やっちまいましたな、これは……」

 とぼやいている。

 ヒネは、どう表現すべきか……普通に呆れた。


 その後も、どうでもいい……というのは他人としてのヒネの感想である。相談者にとって、深刻で重大な悩みごとや相談の相手をこなしたヨヲセは、次の交代の者が来ると

「釈放だぜ」

 と小さく拳を握り、席を立つ。ちょうど昼の時間に差し掛かっていたので、そのまま二人は食堂へと向かうことにした。

 食堂に向かう途中、ヨヲセは相談窓口について補足を加えてくれた。直接の相談窓口は先ほどの1か所だけだが、地方に在住する者のために遠隔通信機で相談も受けており、そちらの方が近年では主要な職務となっているらしい。相談相手になるのは、やはり神呼や審神者の見習いの者で、時間制で交代しながら職務に当たるのだそうだ。

「対面はまだいいんだよ。遠隔通信機はさあ、通信状態が悪いと、そもそも何を話してるのか聞き取りにくいうえ、私みたいな未熟者だと相手の心を読み取るのも至難の業だ。さっきも対面なのに、まったく読めてなかったしな」

 ヨヲセは自嘲気味に笑う。

「それでもヨヲセ様は向いていると思います」

 ヒネがそう言うと、ヨヲセは「え?」と言ってヒネを振り返る。

「あのような悩み相談というのは、たいていご本人の心はもう決まっております。心が読めるか読めないかは、あまり関係ないのでございましょう。ただ聞いてさしあげて、本人の中にある答えを引き出せばよいのです。大切なのは、それに引っ張られて自分が……つまり、相談を受ける側が参ってしまわないことであると存じます。その点ヨヲセ様は実に軽やかに適当にさばいておいででした。とても感心できる心持ちだと思います。」

 ヒネの言葉にヨヲセは目をぱちぱちさせた。じっとヒネを見たあと

「う~ん、褒められている気がしないけど、なんか悪い気はしないなあ」

 そう言って斜め上に視線をやり、しかし次の瞬間には

「まあいっか、ヒネが言うならそうなんだろう」

 そう言ってヨヲセは笑った。


挿絵(By みてみん)

 スベラギの塔にある食堂は6階にある。6階の床面積の半分は食堂および調理場として使われており、非常に広い空間であった。

 食堂の入り口を入ると正面には配膳口がある。配膳口は合計で10か所ほどに分かれており、それぞれ受け取れる料理が異なる。献立は、朝は3種類、昼と夕は3~5種類ほどあり、基本的に各食一人一膳食べられるとのことだった。

 ヒネは、見たことのない赤い汁ものの献立を選んだ。ヨヲセは甘辛く焚いてあるご飯に3種類の小鉢に入ったおかずと根菜汁の膳を選んだようだ。

「これが好きでさ」

 そう言ってヨヲセは、茶色い小さな団子状のものをご飯の中から箸でつまみ上げる。その美味しさはヒネもよく知っている。「せいつく」と呼ばれる食材である。材料は豆の一種で、蒸したものを粗めにすりつぶし団子状にしてから十分に乾燥させたもので、再度熱を加えることで強いうま味と弾力のある食感が楽しめる。だが、ヒネも好きでよく食べるので今回そちらは見送った。

 それよりも見たことのない赤い汁が気になったのだ。「バロバロすりとん汁」という名前がついていた。おそるおそる汁を飲んでみると、見た目の鮮やかな赤からは想像もできない繊細でまろやかなうま味がある。ヒネは一口飲んで目を丸くする。中には白くてもちもちした平たい団子のようなものが入っており、こちらはうっすら塩味が利いていて赤い汁によく合う。ほかにもたくさんの野菜がふんだんに入っており、ヒネの箸は止まることなくあっという間に完食した。

「スベラギの塔では、いつもこのようなご馳走を食べているのですか?」

 ヒネは、食堂を出るときヨヲセに聞いた。

「旨かっただろ? 私も最初に来たときは驚いた。ご馳走というと違うのかもしれないけど、総じて味は旨いな」

 ヨヲセは窓の外を見ながらそう答えた。

 そのまましばらく進んだあと、ヒネはヨヲセが隣にいないことに気がつき足を止めた。

 来た方を振り返ると、ヨヲセが窓の外をじっと見ている。

 ヨヲセの顔はどこかこわばっているように見えて、ヒネは眉をひそめた。


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