きょうだい弟子・ヨヲセ①
大陸の神呼・大陸の審神者とは、カムイクジナに所属する大陸中から選び集められた優秀な神呼と審神者の俗称である。
大陸の神呼や審神者は地方にもよく派遣されており、ヒネも故郷のマガで何度となく見たことがあった。彼らは、いつも上等な衣とただならぬ空気をまとっており、人々からは尊敬と憧れに似た眼差しを向けられ、まるで神聖な存在かのように扱われる。
だから彼らが普段どのような生活をしているのか、あるいはどのような修行をしているのかとヒネは少し期待していた。
しかし実際にカムイクジナの詰所に来てみれば、それはただの事務作業に従事する人々といった様子であった。皆、普通の人と変わらぬ普段使いの衣をまとい、ある者は眠そうに、またある者は眉間にシワを寄せて何やら事務作業をしている。それは想像とはかけ離れた姿であった。
ヒネは、ヨヲセの言う「修行」を見せてもらう前に、カムイクジナの中とその職務について、一通りヨヲセに案内してもらっている。
「もっと、儀式めいたことや特別な修行をしているのかと思っておりました」
ヒネがそう言うと、ヨヲセはどういうことかと眉根を上げて問う。
「特別な修行って?」
「そうですね」
ヒネは、白装束に身を包んだ男女が円陣を組んで座り、円陣の中に濛々と煙があがる香炉を置いて、怪しげな呪文を皆で唱えている光景を思い浮かべる。
とたんにヨヲセが転げるように笑い出した。
自分の頭の中をのぞかれたのだと悟ったヒネは、咎める視線をヨヲセに向ける。
「ごめん、ごめん」
ヨヲセはひいひい言って、笑いを堪えながら謝った。
「視るつもりじゃなかったんだ、本当に。だけど、ヒネが、あからさまにこぼすから……」
「こぼす」とは神呼・審神者用語で「考えや気持ちを垂れ流す、あるいは隠そうとしていない」ことを言うらしい。
ヒネは眉根を寄せて、不快そうにヨヲセに尋ねた。
「どうすれば考えを封じ、人にのぞかれぬようにできますか?」
ここは油断も隙もない部署だとヒネは思った。カムイクジナにいる人の多くは他人の心をのぞくなど容易く、また、心の内を少々隠せる程度では到底太刀打ちできないだろう。カムイクジナに身を置くなら、まずは自分の心を気取られぬよう封じるのが必須課題だとヒネは心に留め置く。
「いや、だからのぞいたんじゃなくて……」
なおも笑いをかみ殺しながら、ヨヲセは言い訳を続けていた。
ヨヲセによると、大陸の神呼・審神者の主な仕事は、祓い・清め・祀ることらしい。
世にある万物は魂の泉から命を分け与えられており、神聖な精霊が宿るとパムゥでは考えられている。人は言わずもがな、空も大地も海も植物も動物もすべて等しく、この惑星や宇宙ですら同じだ。そして何より大事なのは万物との調和を図り、お互いが敬意をもって命を紡ぐこととされている。
すべては、大いなる流れと綿密に組まれた意識の崇高な集積である。その流れが滞るなら、よどみが生まれ澱が溜まり、溜まった澱は穢れを生んで、流れそのものを狂わせると考えられている。
神呼は精霊の声を聴き、審神者はそれを判じる。そしてよどみを祓い、穢れを清めて、感謝とともに祀るのだ。それは万物との調和を何より重んじ、共生を第一に図ろうとするパムゥの人々にとっては欠かすことのできない営みである。日々生まれるさまざまな「よどみ」や「穢れ」を祓ってほしい、清めてほしいとの願いを受けて、カムイクジナでは神呼や審神者を大陸中に派遣している。
だがそれは職務の中のごく一部であり、実際はそれに伴う山のような事務仕事をこなさなければならない。しかしそれも、あくまで正式な「神呼」「審神者」と認められた者たちの話だ。カムイクジナでは、そこに所属する多くの者が「神呼見習い」「審神者見習い」とされており、さらにその見習いを目指す「候補生」もいる。ヨヲセ自身もまだ神呼見習いである。ヒネにいたっては候補生ですらなく、「仮」候補生だ。なお、カムイクジナに所属していると正式に認められる「組織人」なるものは見習いからであり、候補生はその時点ですでに「仮」の存在である。
「はあ……もうこんな時間かあ……」
ヨヲセは嫌そうにため息をつき、カムイクジナを出て昇降機に向かう。
「私たち見習いが請け負う苦行、もとい一番の職務であり修行をこれから見せてやろう」
そう言ってヨヲセは昇降機に乗り、地下一階へ下りるよう指示を出す。
――いよいよ「修行」を見せてもらえるのだ
ヒネは期待に胸を膨らませてヨヲセの後を追った。




