二人の上で乱舞する花
時計を見上げたジンナは、いけないとばかりに、慌ててリビングの対面キッチンへ行き、冷蔵庫から食材を取り出す。今日は司と迎える2回目の花火大会だ、夕方には司の事務所へ行って、手製のつまみとワインを片手に花火を観賞する予定になっている。
入籍と同時に移ってきた部屋は2LDKの賃貸マンションだ。築25年と、決して新しい物件ではないが、2年前にフルリノベーションされた室内は新築そのものといった様相で、ジンナは大いに満足している。
司とは約1年の交際を経て結婚に至った。
「結婚式しないの?」と残念がってくれたのは、OL時代には毎日のように通っていたスナックの常連で「幹まなと」という女性だ。「年とってからの結婚式なんて、罰ゲーム感あって楽しいのに」とむくれていた、本当に失礼な人である。しかし、すでに4年以上になる付き合いの中で、それは彼女なりの祝福の仕方だということも知っている。今となっては毎日のように会えないことが少し寂しい。
ジンナの頭を悩ませ、一番緊張したのが、母への説得だった。この結婚における唯一のハードルであると言っても過言ではない。だが実際に「法槻さんのところの司くんと結婚することになった」と母に報告してみれば「こんな年齢の娘をもらってくれるなんて、なんて奇特な方なの! 大歓迎よ」と大いに喜んでくれ、ジンナは拍子抜けした。顔合わせのときにおいては、昔あんなに批判していたことなどすっかり棚に上げて「私たちの年代でキャリアを重ねる女性なんて珍しかったものでございましょう? ずっと憧れておりましたの」などと、司の母に驚くほどの虚辞を連ねてみせた。
ともあれ結婚に際しては、これといった問題も滞りもなく、自分でもびっくりするほどトントン拍子に進んでいった。
「うわあ、食べるのがもったいないね!」
ジンナが作った手製のつまみをのぞき込み、司が満面の笑みで言う。
仕事を早々に切り上げた司は、法律事務所の屋上に簡易チェアを並べ、花火の開始時刻に合わせてやって来たジンナを待ち構えていた。
二人でグラスを傾けながら、今か今かと花火の一発目を待っている。
「どれからいただこうかな……」
目を輝かせながらつまみをのぞき込む夫の顔を眺めていたジンナは、なぜだかとても懐かしい気持ちに包まれる。
遠くの方で、大地を踏み込むような破裂音が轟いた。これから始まる宴を知らせるかのように、満天に向かって笛の音が駆けあがる。
色とりどりの大輪の花々が、ジンナと司が手にしたグラスの中で、次から次へと乱舞しはじめた。
*
「ふむ……」
そう言ってカダは何やら考え込む。
「ただ……」
ヒネは続けた。
「実は、この夢についてお話ししたのには、別の理由もございます」
「別の理由?」
カダは目で続きを促す。
「はい。もしわたくしがこの場で追放となっても、解決しておきたい疑問がございまして、ちょうどよい機会をいただけたのでお話いたしました。実はこの夢を見ている間、私はもう一つ別の夢も同時に見ておりました」
「別……だと?」
カダが少し驚いた様子で問う。
「はい、先ほどの夢に重なるように、裏の意識でずっと別の映像を捉えていたのです。先ほどの夢が終わり、一度目覚めたと思ったものの、目覚めた世界はまだ夢の中でありました。そうして初めて、裏の意識で捉えていた映像をはっきりと認識することができたのです」
伏し目がちに答えるヒネに、カダは続きを促す。
「その別の夢とは? いったい、どのようなものであったのだ」
「はい……」
ヒネはしばし逡巡する。気になっていたのは事実だが、こちらはただの夢かもしれない。
しかし、だからこそ審神者頭のカダにそれを判じてもらえる機会であるのだと思い直し、意を決して話すことにした。
「そこは恐ろしい世界でありました。」




