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ガルシャの家

挿絵(By みてみん)


「ここが私たちの住まいだ」

 ヨヲセが指し示した扉は、地上から階段で十数段ばかり下りた先にあった。入り口を見れば、かなり年季が入っているように見える。

 真っ暗な道を数分歩いて、ようやくたどり着いたこの家は、みるからに簡素で適当な造りをしている。なぜガルシャとヨヲセはこのように不便そうな家に住んでいるのだろうとヒネは訝しく思う。先ほど出てきたスベラギの塔は、たしかに大勢の人間がひしめきあうようにして暮らしている。聞けば、優に二万人を超える人間が寝食を共にしているらしい。しかし、スベラギの塔は一つの街ほどもある巨塔だ、部屋数が足りていないようには思えない。にもかかわらず、この住まいは塔を出てからしばらく歩く距離にあり、しかもその道は巨大生物に遭遇しかねない外の道だ。何か理由でもあるのだろうか。

 扉を開けた先の室内は、二部屋だけのようである。床は土を踏み固めただけの土間で、履物を脱ぐ場所はない。扉を入ってすぐ右わきに脚の付いた寝床があり、部屋の中央には簡単な机と椅子が4脚、最後に使われたままの状態で置かれている。そのほか、乱雑に積み上げられた書物や、捨て置かれたように散乱している生活道具で部屋は雑然としていた。

「汚い……」ヒネは呆れて、心の中で独り言ちる。

「じゃ、あたしはもう寝るから」

 ガルシャはそれだけ言って、室内の中央奥に一つだけある小上がりになった部屋の引き戸を開けた。ガルシャは引き戸の下に履物を脱ぎ捨て、四つん這いで中へと進み扉を閉める。どうやら奥の部屋はガルシャの寝室のようである。

 改めて室内を見渡すと、左奥の隅に水場があり、積み上げられた使用済みの食器の間から、かろうじて水道の蛇口らしきものが見える。

「あ、便所は外だ。 風呂はここにないから、スベラギの塔……あ、さっきの塔のことだけど、そこの湯殿で適当に入ってくるんだ。今日はこんな時間だから、申し訳ないけど諦めてくれ。そこの寝床、使っていいから!」

 簡単に説明を済ませたヨヲセは、その辺りにあった上掛けを適当に肩にひっかけ、扉から出ていこうとする。

「あの、ヨヲセ様はどちらで休まれるのですか?」

 慌ててヒネが尋ねると

「私は外で構わない。今夜は雨も降ってないし、気候のいい日は外で寝ることもよくあるから」

 カラリと言って笑うと、そのまま外へ出ていってしまった。

 ヒネのために寝床を譲ってくれたようである。だが、今夜はよくとも明日以降、どうしたものかとヒネは思案する。それに夜更けとはいえ、巨大生物が万が一にでも通り掛かる危険性は否定できない。しかも気候はだいぶ暖かくなってきたとはいえ、まだ朝晩が冷え込む時季である。ヨヲセは大丈夫なのだろうか?

 とりあえず履いていたものを脱いで、寝床の脇に丁寧にそろえて置き、もぞもぞと寝床の中に入った。横になってみると意外にも快適な寝心地で、ほのかに男性特有の体臭のようなものを感じたが、ヒネにとっては不快な匂いではなかった。

 壁紙も装飾もない、土がさらされたままの天井を見上げる。天井には、寝床一つ分ほどの長方形の天窓があり、そこから満天の星が見えた。「朝日が昇れば、まぶしいだろうな」ヒネはそのようなことを考えながら、外で寝ているヨヲセの姿を思い浮かべる。屈強そうな身体……とはいえ巨大生物が来たら……。今夜は冷えないだろうか? 気にかかる点はいくつかあったが、この辺りの巨大生物は基本的に昼行性ちゅうこうせいである。夜には巨大生物も出歩きはしないだろうと考え、今夜は厚意に甘えることに決めた。

 目をつむると、先日出てきた実家の自室が、まぶたの裏に浮かぶ。生まれてからずっと過ごしてきた慣れ親しんだ家だ。だが、今となってはもう戻れない、戻りたくないと感じる。それは今後、この場所がいかに不快に感じようとも変わらない気がした。そうしてしまったのは自分自身であるのだが。



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