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父の正体

 それはヒネが8歳のときだった。

 リタは、遠く離れて暮らしている父親がリタを尋ねて来てくれることになったのだと、共同体家族内外の友人たちに嬉しそうに触れ回っていた。

「お父様は、飛行艇の船長をしているの。だからずっと会えていなかったのだけれど、近く会いに来てくださることになったのよ。お父様はね、ほかの大陸で巨大な生き物を調査する人や、電気の塔を修理する人たちを乗せて、パムゥの星中を飛行艇で行き来していらっしゃる方なのよ」

 同じ年頃の少年少女たちは色めき立ち、興味津々で話を聞いていた。パムゥの大陸における、子どもたちが一番憧れる存在はスベラギの塔にある各部署の長の「ミコト」、あるいは20人のミコトを束ねる「スベラミコト」である。しかし彼らはこの惑星パムゥの中でもたった21人しかいない、いわば雲の上の存在であるため、子どもたちが現実的な憧れを抱き、夢みる存在とされるのがスベラギの塔で職務にあたる人々である。そして、スベラギの塔で働く人々と人気を二分する職務とされるのが、大陸外を渡る飛行艇の船長であった。

「それだけじゃないのよ? お父様はね、ミナナミで一番の神呼“アギチャ様”の孫なのですって!」

「まあ、だからリタには神呼の資質がおありなのね」

 感心した顔で皆がうなずく。ヒネと同じくリタにも神呼の資質があり、そのことをあまり話さなかったヒネとは違い、リタは堂々と自身の能力を公表してきたため、リタが神呼であることは誰もが知る事実だった。

 するとそのうちの一人が「お顔がわかる画像や映像はございませんの?」と聞いた。その言葉にリタは、待っておりましたと言わんばかりに、周りにいる者全員のこめかみに埋め込まれた電子機器へ、父親の顔画像を送りつけた。

「まぁ、素敵なお姿!」

 一部の女子から悲鳴にも似た歓声が上がる。

「若いころのお姿だそうよ? だから今は、きっともう“おじさん”って感じかもしれないわ」

 そう言いながら苦笑するリタだったが、しかし自慢気な様子は隠せていない。たまたま近くで母の糸巻きを手伝っていたヒネの電子機器にも送信されてきたため、特に興味はなかったが脳内で画像を開いて確認した。

 そこに写り込んだ男性は、よく日に焼けた肌に満面の笑みを浮かべており、目鼻立ちがしっかりとした青年であった。だがヒネは、その顔をみて「あれ?」と思った。

 なんだか変な違和感を覚えたのだ。ヒネは、同じ年頃のほかの女子たちに比べれば、鏡を見る頻度が多い方ではない。だが記憶している自分の顔は、どことなくこの男性に似ているような気がする。少なくともリタよりは自分の方が似ているように感じた。リタをとり巻く女の子のうち数名も、同じことを思ったのかもしれない。リタとヒネを見比べて、首をかしげている者がいることにヒネは気がつく。なんだか嫌な予感がして隣にいる母親を見上げたが、母親はいつものように柔和な顔で作業に励んでいるだけだった。


 それから数日のちに、件の男性は共同体家族を尋ねてやって来た。

 ヒネやリタが暮らす共同体家族の住まいも地下にあり、横に伸びた廊下の両端に各部屋を設えた、パムゥでは一般的な様式の住居だ。当時は、男女合わせて18人で生活をしていた。入口は地下の公道から階段でさらに数段下ったところにあり、扉を開ければ履物を脱ぐたたきがある。履物を脱ぎ、そこから3段ほど上がったところが共用部分の廊下となる。そして、ヒネのいた共同体家族が主な生業としているのは衣作りであったため、住居としていた地下の家は作業の工程ごとに分かれた部屋のほかに、全員が集まれる食事部屋と寝起きに使う個室が5部屋ほどあった。

 入口で、呼び出しの鐘が鳴らされて間もなく、応対した者が作業部屋にドタドタと駆け込んだ。

「リタ、いらっしゃったわよ!」

 誰が来たかなど問うまでもない。リタは、やりかけていた作業を放り出すと急いで席を立ち、入口の方へと駆けていった。

 ちょうど、入り口近くに備えられている洗面所より出てきたヒネは、駆けてくるリタを見てすぐに事態を察した。振り返った先には、以前リタによって送られてきた写真の男性が立っていた。目元に刻まれた笑いジワはもともとの甘い顔立ちにいくらか渋みを加えており、小麦色の肌を際立たせる明るい色の洒落た長羽織からは、引き締まった体を思わせる胸元がのぞいていた。画像よりはいくらか年齢を重ねたようではあるが、いまだに女性が好みそうな風貌は健在といった様子であった。

「お父様!!」

 若干、演技がかったような声を上げ、飛び込まんばかりの勢いでリタが男性の前へ立った。とたんに男性の顔には、あふれんばかりの笑みがこぼれた。

「おお! ヒネか!! 大きくなったなぁ、会いたかったぞ!」

 リタが固まったのが、その背中越しにわかった。

 ゆっくりと振り返ったリタと目が合ったヒネは「終わった……」と、瞬間的に思った。

挿絵(By みてみん)


 男の名前はカイザンといい、やはり、リタの父親でもありヒネの父親でもあると聞かされた。つまりヒネとリタは異母姉妹だったわけで、このときになって初めて知った事実である。

 リタはこの日、大げさに泣いてしばらく部屋から出てこなかった。しかし夕餉の時刻、カイザンの歓迎会をするとなったときには部屋からようやく出てきて、その後はカイザンにべったりくっついて散々甘えていた。

 ヒネは、カイザンと何度か目があったが、あまり近寄ろうとはせず、翌日カイザンを見送るときも「お元気で」と他人行儀に挨拶をしただけであった。

 ヒネはもともとリタと仲がよかったわけではないが、この日を境に一層距離ができてしまったように思う。そして、リタが社会的獲得点数にこだわるようになったのは、この出来事がきっかけだったのではないかとヒネは考えている。


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