ミナナミと父の影②
パムゥでは右手側をヒガシ(東)左手側をヒニシ(西)としたとき、正面に来る方角を上方(カミカタ:以後「カミカタ」で表記)、背面の方角を下方(シモカタ:以後「シモカタ」で表記)と呼んでいる。そしてミナナミは、大陸のもっともシモカタにある大きな都市である。
パムゥの大陸の形は、右手の親指を織り込んで拳を作り、手の甲より指が始まる最初の関節を一番上にして親指側の方から見た形と似ている。そしてヒネが今いるこの都市は名をアマトといい、拳でいえば織り込んだ親指にあたる、比較的内陸にある土地だ。アマトはかつて、シュバウルの宇宙船からパムゥ人が初めて降り立った場所で、“空から扉が開いた”という意味でアマト(天戸)と名付けられた。アマトはこの大陸で、もっとも大きな都市である。そして、ミナナミは拳でいえば手首辺りに位置し、アマトに次いで二番目に大きな都市である。
聞き及ぶ話によると、ミナナミの人々は、おうようで快活な人が多く、言葉は少し砕けていて親しみを感じるものらしい。また派手好きで既成概念に縛られない者が多いせいか、服装や髪型などが、しばしば流行の発信源となる地方である。
ミナナミはその昔、人々が最初に降り立った地であるアマトから、より遠くを目指した者たちがたどり着いた場所だ。まだ飛行艇がそこまで発達していなかった時代に、大型動物がひしめく場所も通らねばならず、そのため経験者を優遇しながら一族が団結し、身を守ってきた歴史的背景がある。このような理由からアマトをはじめとするほかの地方のように、自分の思想や趣味・生業としたいことを基準に人々が共同体家族を選ぶのとは違い、ミナナミでは年長者を敬い血族で暮らしていることが多い。そしてその規模、つまり所属する人数も一つひとつが大きいものとなっており、共同体家族というよりは“一族”のかたちで生活基盤を築いている場合がほとんどだ。
また、ミナナミでは自然や精霊に対する畏敬の念も厚く、腕のいい女性の神呼や審神者を「ババ様」男性なら「ジジ様」と、年齢に関係なく呼ぶのだという。
余談ではあるが、ミナナミに生息する巨大生物はほかの場所に比べてそれほど大きくないらしい。一説では、年中暖かい気候がそうさせたのらしいが、その辺りは知識が乏しくヒネはよくわからない。
このように、語りだせば特徴に事欠かないミナナミではあるが、その名前はヒネにとって父を象徴する土地の名でもあり、そして父との思い出はあまりいいものではなかった。
しつこく「なぜわかったのか」と問うてくるヨヲセに、ヒネは「父の出身地でもあるため、ヨヲセの話し方が似ていると思っただけだ」と答えた。
ヒネの父の出身地と自分の出身地が同じだという共通点に、なぜか浮かれだしたヨヲセを意識の脇に置き、ヒネは幼い日に一度だけあった父親を思い出していた。




