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大陸一の神呼(みこ)ガルシャ

 突然部屋のドアが開き、ヒネは我に返った。明日からのことを思うと憂鬱ゆううつになり、いつしか幼いころの苦い記憶に浸っていたことに気がつく。

 ドアから入ってきたのは見知らぬ老婆だった。檜皮色ひわだいろの上衣に、下は目の覚めるような鮮やかな濃紺の袴を身につけている。結い上げられた真っ白なまげは、歳のせいか細く小ぶりで、深いシワに囲まれた大きな四白眼しはくがんがグリグリとヒネを見つめている。

「ヒネってのは、あんたかい」

 出し抜けに老婆が問う。

「はい、さようでございます」

 反射的に答えたヒネを、老婆は舐めるように見回しながら「ふうん」と声をもらす。

「うちのバカ弟子が『かわいいが入った。どうやら神呼の候補生のようだ』と騒ぐもんだからね? なるほど、たしかに別嬪さんだ」

「ちょっとババ様! やめてください!!」

 続いて、慌てたように男性が駆け込んできた。ヒネと歳が変わらないだろう若い男性だった。

挿絵(By みてみん)

「はは……申し訳ありません。うちのババ……師匠が」

 どうやらさっき老婆が言った「バカ弟子」とは、この青年のことらしい。顔を赤くして、老婆の肩を掴みながら部屋から出ていかせようとしている。

「放せ、バカもん!! あたしはこの娘に用があるんだ」

 老婆が、青年の手を振り払い、ヒネの方へ向き直る。

「やめてくださいってば! 普段は私の話なんて、ろくに耳を傾けてもくれないじゃないですか。なんだってこんなときだけ……」

 青年は頭をかきながら、参ったように口を尖らせている。

「バカもん! アンタの女の趣味なんぞ興味がないわ! それはただの口実だ。あたしはこの娘の獲得点数が気になって、ここへ来たんだ」

 老婆の言葉に、ヒネは訝しげな表情を浮かべる。

「獲得点数とは社会的獲得点数のことでございますか?」

 すると老婆はこともなげに答えた。

「ああ、そうだよ? あんたはその歳で社会的獲得点数がかなり高い。その内訳を見れば、その人間の人となりがよくわかる。あんたみたいな点の取り方をするのは、腹黒く、ずる賢い人間か……あるいは懐の深い、孤独な人間のどちらかだ」

 ヒネは老婆の顔をじっと見て言った。

「おそれいります、あなた様はどなたですか?」

 老婆は唇の片端を引き上げながら「ふん」と答えた。

「あたしは、この大陸一の神呼、ガルシャだ」

 その名前にはヒネも聞き覚えがあった。大陸一の審神者がカダなら、大陸一の神呼はガルシャといって、すべての“大陸の神呼”を束ねる神呼頭であると。

「失礼いたしました、ガルシャ様。改めまして、わたくしはヒネと申します」

 だが、ガルシャはヒネの言葉など聞いていなかった。深いシワに囲まれた瞳は、歳のわりには濁りがなく生気に満ちている。心の奥底までのぞき込むようなガルシャの瞳に、ヒネはたじろぎそうになった。目の前の老婆はこの国で一番の神呼だ、人の心の内を見透かすなど容易いことであろう。だがそれならば――と、ヒネは思い直す。ヒネの中の狡猾こうかつさを暴いてくれるなら、かえって罪悪感をいくらか和らげてくれるような気がして、ヒネは老婆から目を逸らすことなくじっと見つめ返した。

「いかがでしょう。わたくしの狡猾さを見咎めておいでですか?」

 すると、ガルシャはニヤリとして

「さぁ、どうしたもんかねぇ……こりゃ面白い!気に入ったよ」

 楽しそうにそう言った。続けて、声をいくらかひそめる。

「本当に狡猾な人間はね、自分が狡猾かどうかなどと悩んだりはしないものさ」

 驚いて声を失ったヒネをよそに、ガルシャは声を張った。

「あんたをあたしの弟子にしてやろう! どうせまだ所属は決まってないんだろ? あたしのとこに来な!」

 ヒネは目を見開く。

「あの、お言葉は嬉しいのですが、どうやらわたくしはカダ様から不合格の極印きわめいんを押されたようで……」

「あん? カダだって? あぁ、放っておきゃいいさ。あいつが不用だと言うなら、なおさら都合がいい。いらないなら私が引きとるまでさ」

 カラリと言ってのけるガルシャに今度こそヒネはたじろぐ。そもそも、なぜこの人には自分の社会的獲得点数が知られているのだろう。あれは、成人になって以降は本人しか知り得ない情報のはずだ。

「あ、あの……おそれいります、なぜガルシャ様はわたくしの獲得点数をご存じなのでしょう」

 行くぞ! と言わんばかりに部屋を出ようとしたガルシャは振り返り、何でもないことのように答える。

「そもそもアレの、今の仕組みを作ったのはこのあたし。あたしは今でこそ神呼なんぞしてるけれど、昔は優秀な情報技術者だったのさ。だから誰の獲得点数も、のぞくなんざ造作もないことよ。くわえてあたしが作ったんだから、獲得点数の内訳を見ればその者がどんな人間かは会わずともだいたいわかる。ほかに質問は?」

 ヒネは言葉に窮した。今しがた何か……倫理的に宜しくない発言をさらりと耳にした気がするのだが。

「特にないなら付いてきな!」そう言ってガルシャは、青年もろともヒネを部屋から連れ出した。


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