カダ25歳ー依頼ー⑨
それぞれの筒の中は、ドロリとした半透明な緑色の液体で満ちている。
「これは?」
カダは、シュガの方に視線を戻して問う。
「我々の科学技術は、永遠ともいえる寿命を実現している。だがその実、寿命そのものは、さほど伸びていないのだよ」
シュガは苦笑しながら言う。
「我々は毎日カプセルに入り……ああ、カプセルというのは、一人用の狭い個室といえば想像できるだろうか? そこで毎日、禊のようなものを行うのだ。君たちが湯殿で体を清めるのと同じく、日々の体の汚れや老廃物を落とすのが主な目的なのだけどね。そのとき、同時に体の隅々まで検査を行うことができる。そして、少しでも悪い細胞があれば瞬時に除去し、また日々細胞を再生させることで歳をとらずにいられるのだよ」
カダは驚いたように、手元に並ぶ筒とシュガを交互に見る。
「さすがに毎日、君をカプセルに入れるわけにはいかないからね。それは、我々が禊の中で使う、悪い細胞を除去してくれるものと、細胞を再生させる成分を濃縮したものだ。120日に一度、確実に体内に注入してほしい。やり方は簡単だ。筒の先、たくさん針が付いている方を肌に当て、反対側の突起を勢いよく押せばいい。」
カダは唾をのみ、手元の箱の中に再度目を落とす。
「だがそれは凝縮してあるせいで、強い副作用を伴う。注入する部位にもよるけど、3日から10日ほどは床に臥すことになるだろうから、打つときには覚悟してほしい」
カダは、もう一度シュガに目を戻した。シュガは続ける。
「そしてもう一つ、大事な注意点がある。我々のように毎日カプセルで禊ぎをしている者は、それをやめたからといって、すぐにどうにかなるわけではない。ただ止まっていた時が再開し、通常通り年齢を重ねはじめ、体内の浄化されない細胞が少しずつ蓄積していくだけだ。だが、君が手にしているそれは、体内への注入が滞ればすぐにでも体を蝕みだす。十日と経たないうちに、君の命を喰ってしまうだろう。滞っても3日が限界だ。そして、注入を早める分には特に問題ないが、やはりそのようなときであっても、注入後からきっちり120日後には次を打つように気を付けてほしい」
カダがもう一度、唾をのむ。
「つまり一度打ってしまえば、もうあとには退けぬということであるな」
カダの瞳に、恐れは感じなかった。ただ、静かに、シュガを捕えている。
「箱の中身が無くなれば、随時届けるから……」
そこまで言ったとき、シュガは途中で言葉に詰まり、まじまじとカダを見つめた。
本当に皮肉な話であるな、とシュガは嘆息したのだ。
かつて永遠ともいえる命を拒み、愛する人と別れ、シュバウルの星とともに散っていった親友を思い出さずにはいられない。カダの魂は、シュガの親友リュアリのそれと、本当によく似ているのだ。「人は限られた時間を生きるからこそ尊い」と言って、世を去ったリュアリにそっくりなこの者に、今は確実に生き続けろと強要している。
「どうかしたのか?」
訝しんで問うてきたカダに、シュガは軽く首を振る。
「いや、なんでもない。箱の中身は無くなるころ随時届けるよ。過大な要求に心苦しく思うが、どうかお願いしたい。」
カダはしばし瞑目した。
だが、覚悟を決めたように目を開けると、しっかりシュガの目を見て答えた。
「承知いたした」
――そうだ。いくら似ているとはいえ、カダとリュアリは別人だ。
シュガは、つい感傷に浸ってしまった己を叱責し、意識をしっかり現実に引き戻す。
「それに」とシュガは自分に言い聞かせるように思い直す。
今日、初めて実際のカダに会ったわけだが、カダにそっくりな魂をもつ男のことなら、ずっと昔からよく知っている。彼がいかに信用に値する人物であったのかということも。
ならば、このカダも信用に値する人間と信じられる。
カダならば、己の恐怖心や都合に振り回されず、惑星と魂の泉の声にしっかり耳を傾け、その運命を判じてくれるであろう。
シュガは、想定外の出会いに、そして快諾してくれたカダに、心から感謝した。




