カダ25歳ー依頼ー③
「ただ大量の水を拝領しようという話ではないのか?」
カダの問いにシュガはすぐには答えず、じっとカダの瞳を見つめる。
シュガの話をまとめるように、カダが一つ、また一つと言葉をつなげる。
「まず、惑星パムゥに最適な距離で近づいた彗星から、パムゥの引力によって大量の水を拝領する。そして、彗星から溶け出た氷に閉じ込められていた高濃度の水素もまた、大量の水や粉塵とともに惑星パムゥの大気圏内へ誘われる」
シュガは熱のない瞳をカダに向けたまま、その先を見守る。
「そのとき発生する高温の熱と大量の水素、そして大気圏の内側にある酸素が結びつくことで生まれるのは、やはり『水』。しかし、それは単純に彗星から降り注ぐ水とは……」
カダの喉ぼとけが大きく上下した。
「性質が……彗星から降り注ぐ水とは性質が違う」
目を見開いたまま、カダは黙った。
そう、その水は、惑星パムゥの「酸素」と引き換えに、新たに生み出される“水”なのだ。
すなわちそれは、惑星パムゥから大量の酸素を消失させることに他ならない。巨大生物が大量の酸素を必要とするのは言うまでもない。だが、それは巨大生物に限った話ではないだろう。酸素を必要としているのはカダたち「人間」もまた同じなのだ。
カダの額に汗が滲むのが見えた。
「だが、それだけか?」カダは自問するように言って、必死で、過去に得た知識を総ざらいでもしているのか、その目が泳いでいる。
シュガは、脳裏に流れ込むカダの「思考」から目をそらすように、視線を流した。
カダは、幼いころの記憶をたどっているようだった。
寒くない時季には、地下の畑で作物を作る手伝いに駆り出され、そのころは毎日のように、水を運ばされた思い出が見えた。いっぱいになった水桶を、やっとの思いで運ぶ。両手に出来たマメを眺めながら、水とはかくも重いものか、と毎日辟易していた。
そうだ、水とは重いのだ。いったい、すべて合わせるなら、どれだけの量の水が惑星パムゥに降り注ぐというのだろうか――当然の疑問である。
「水はどれだけ増える?」
カダは視線を上げないまま、シュガに問うた。
「どれだけ増えるかと言われると少し難しい。水は、気化したり氷結したりと、環境に応じて状態が変わる物質だからね。しかし、星全体の陸と海の割合は、最終的に3:7くらいで落ち着く予定だ」
静かなシュガの返答にカダは目を上げる。
「3:7であると? それでは、この星はもはや水の惑星となるではないか」
声を上げたカダは、しかし次に息をのむ。
「待て、待たれよ。そうするとどうなる? 星全体の質量は当然増えるであろう、だがそうなれば……」
その先を、シュガが引き受けた。
「惑星の万物を引き付ける力は増し、君たちは自重を支えることすら困難になるだろうね」
カダは動転したのか、次の言葉を失った。
降り注ぐ大量の水に逃げ惑う人々、だが逃げ延びたところで酸素は薄く、重力が増した世界。そこでは立っていることすらままならず、さながら地獄のようであろう。それは、シュガとて想像したくもない未来の様子である。
「そなたらは……」
カダの声は掠れていた。
「我々をこの星で暮らせるようにと作り替えた。我々にその英知を惜しみなく与え、繁栄をもたらしておきながら、最終的にはあっけなく「死ね」と仰せか!?」
カダが、珍しく声を荒らげた。壁に反響した自らの声に、自分でもこんな声が出るのかと、動揺しているのがシュガにもわかった。




