カダ25歳ー依頼ー②
カダが反論すると、シュガの目がいくらか鈍く光った。
「我々シュバウルの技術を君は何だと思っているのだい? まったく見当違いな方向へ向かう彗星であるならまだしも、もともとこちらへ向かっている彗星の方向を少し調整するだけだ、我々にとっては決して難しい話ではない」
カダは、驚いたように開いたままでいた口を、静かに閉じた。なるほど、それならば奇想天外な話も不可能ではないかもしれない、そう納得してくれたように見えた。
「しかし、それを、先ほどそなたが申された、この星の“いくつかの問題”を解決へと導く手段とするのは、無理があるのではなかろうか。水の量は圧倒的に増えるやもしれぬが、巨大生物との共存や別大陸への移住にどう関わるのだ?」
シュガは、その瞳に、わずかに憂いを浮かべる。
「君はあくまで共存を望むのだね、美しいことだ。だが他の大陸に住まう巨大生物は、パムゥの大陸に住む個体のように穏やかなものばかりではない。ましてや、話してわかるようなものたちでもなければ、飼いならすことすらできないだろう」
「それはわかっておる。だが、それならばどうするのだ? 殺生でもして駆逐しろと申されるか」
カダは、不愉快そうに反論する。
「焼いて食べてみれば、案外、美味いかもしれないよ?」
シュガは口元をゆるめて戯れを言ってみたが、カダはますます不快そうに顔をゆがめた。
「動物を食えと? 考えるだけでもおぞましい……」
カダをからかっていたシュガは、顔を引き締めて言った。
「君たちが手を下す必要などないのだよ」
シュガの言葉に、意図を掴みかねた様子のカダは、シュガをじっと見つめた。
「彗星には大量の氷が張っていて、ラーヨウの光を受けて溶けだせば水となる。その水が惑星パムゥに降り注ぐのを狙う、といったところまでは、先ほど話した通りだ。だが、その氷はただの氷ではない。大量の水素を物理的に封じ込めた“水素氷”なのだよ。氷が解けた際には、大量の水とともにそこに閉じ込められていた水素もまた、惑星パムゥの大気圏内へと誘われる。」
眉根をひそめて聞き入るカダに、シュガは穏やかな表情を崩さず続ける。
「君はハムナビの出身だったね。それなら雪遊びをした経験もあるのではないかい? 溶けはじめた雪で作った雪球は、たくさんの土やほこりを含んでいたでしょう? 彗星はそのような雪球に近い。純粋な氷のほかに大量のチリや微粒子も含んでいるのだ。それらもろとも大気を突き破ってくる姿を想像できるかな?」
カダは、天文の知識には明るくないようだ。だが、宇宙から降り注ぐ石、隕石が落ちてくる際の様子は、聞き及ぶ範囲で知っているだろう。隕石の凄まじい速さで圧縮された空気が猛烈な熱を生み、高温となった隕石はまるでラーヨウのように明るい光を放ちながら燃え落ちてくる。ならば彗星の氷も、この惑星の大気圏に到達した際は……。
「おそらく君が想像している通りだ」
カダが瞳で語ってくれた頭の中の思考を、シュガが引き受けるように続けた。
「一瞬で燃え上がるだろうね。大気に含まれる酸素と高濃度の水素、そして燃え上がる氷が揃ったとき、どうなるだろう」
カダが固まった。
「しばし待たれよ……」
カダは、眉間を手で押さえながら、シュガの言葉を遮るように言った。見れば、唇も少し震えていた。
「ただ大量の水を拝領しようという話ではないのか?」




