カダ21歳―親友―④
「え?」
オウガに問われて、カダは初めて自分が楽しげな笑みを浮かべていることに気がついた。実際、カダは楽しかった。なぜなら、オウガとこんなに会話ができたのは、ほぼ初めてだったからだ。
自分が、場違いな笑みを浮かべていたことに気がついたカダは、さっと笑みをしまった。しかし、次には、納得いかない思いがじわじわ湧き出るのを認めた。
「ならば、別に審神者にこだわる必要がないではないか」
カダは、オウガの今までの振舞いを責めたいような気持ちになって声を上げた。オウガはカダの言っている意味がわからない様子で、ぽかんとする。
「私がいつ審神者にこだわっていると言った?」
オウガは眉根を上げ、不思議そうに問う。
「こだわっているとは聞いていない。だが、その……ずっと私に敵意を抱いていたではないか。それは、そなたが、私よりも認められたいという思いの表れであろう?」
カダは、自分が大人げないと思いながらも、言葉を続けることを止められなかった。オウガは眉をひそめ、カダをまじまじと見ながら答えた。
「私はたしかにそなたが嫌いだ」
わかっていたこととはいえ、カダは少し自分が傷つくのを感じる。
「だがそれは、そなたが審神者として私より有能だからとか……そういうことではない」
そう言いながら、目を逸らし、バツが悪そうにするオウガを見てカダは戸惑う。だが、すぐに「ああガルシャのことか」と思い至る。カダがためらいがちに、その名を口にしかけた時、先にオウガから出てきた名前にカダは固まった。
「ツクモが……ツクモがそなたを素敵だなんだと、もてはやすものだから」
……。
ツクモって誰だ?
聞いたこともない名前に、カダは脳内の隅々まで記憶をさらってみる。しかし、どんなに遡ってみても、まるで心当たりがない。
「誰ぞや、それは? みたいな顔をするでない! そういうところであるぞ!」
顔を真っ赤にしてオウガが声を荒らげる。カダは、記憶を掘り起こす作業をやめ、オウガに向き直る。
「そうか……その者は、そなたの恋人なのだな」
真顔で問うたカダに、オウガは一層顔を赤くする。
「恋人ではない! 悲しいことに……。だが、初めて見たときから、私は彼女に思いを寄せていたのだ。それが、そなたが火災に遭った日だ。びしょ濡れのそなたを湯殿に案内する際、ツクモはすっかりそなたに心を奪われてしまって……」
カダはずっと前、火災の中をガルシャと逃げ、スベラギの塔を初めて訪れた日のことを思い出す。たしかにあのとき、何人かの女性が湯殿まで案内してくれたはずだ。その中の誰かが、オウガの言う「ツクモ」なる人物だったのだろう。
カダはふっと口元が緩んだ。
「なんだ、てっきりそなたはガルシャに思いを寄せているのだと思っていた」
すると、オウガは目を見開き、驚きの声を上げる。
「はぁ!? あのようにキツイ女子に惚れるわけがなかろう。あの者は、きっとこの先も恋人など、できようもないぞ!」
カダは、はたと一拍置いたのち
「ガルシャは今、私の恋人であるが」
と、続けた。オウガは目を丸くし、やはり一拍置いたのちに答える。
「そなた、気はたしかか?」
「……」
「……」
「いや、さすがにそれは失礼であろう」
「失礼であるな、さすがにな」
カダとオウガは、ほぼ同時に声を上げ、先ほどのやりとりを訂正しあった。ふと、お互いに目が合い、どちらからともなく笑いがもれる。
「しかし、私はそなたの、ガルシャに対する嫉妬心のようなものを感じたのだが」
カダが問うと、オウガは悔しそうな表情を浮かべて答える。
「当たり前だ。あの者は12歳のころより神呼見習い、つまりは組織人として認められておる。そのうえ、16歳からは、カムイクジナと同時にカザヒコジムナ(情報技術部)にも所属を許されておるのだ……。いったい、いかように立ち回れば、そんな抜け目ないことができるのだ!」
カダは噴き出した。
「ガルシャは別に、政治など興味がないと思うぞ? ただ、やりたいことと、求められることの折り合いを付けているだけだ」
カダがそう言うと、オウガは振り返る。
「そうなのか?」
いくらか留飲を下げたオウガに、カダは優しい笑みでうなずいてみせた。
塔の中がいつになく穏やかな日差しに照らされているように感じ、カダは、窓の外を見やりながら目を細める。
「寂しくなるな……」
カダの口から思わずこぼれた言葉は、しかし紛れもないカダの本心であった。それに答えるように、オウガも、窓の外を見やりながらつぶやく。
「もっと早くに、腹を割って話をすればよかったな……」
カダにはその日、人生で二人目の友人ができたのだった。




