カダ20歳ー告白ー①
「また振ったの?」
半分笑みを浮かべながら、半分呆れたようにガルシャが言った。
「振った、など……そんなつもりで言ったわけではない。向こうも、私とは友達になりたいだけだと言っておったし……表向きは」
「表向きはってことは、本当は分かってたんじゃない。『迷惑でなければ』って言って渡そうとした手作りの菓子を、『要らない』なんて。その子、泣いてるよ? 絶対」
書棚から手際よく書物を取り出していくガルシャを手伝いながら、カダは頭を掻いた。
「食事を終えたばかりで、もう入りそうになかったのだ……それに、断ったとて許される関係を、友と言うのではないのか?」
言い訳をするように、カダは口を尖らせた。
カダがスベラギの塔に来てから4年、相変わらずカダを慕う女性は数多くいた。
しかし、カダは最初にスベラギの塔へ来た時よりも、ずっと孤独になっていた。どちらかというと、カダに好意を持つ者より、避ける者の方が多くなっていたからだ。
カダの審神者としての能力は、他の審神者仲間より抜きんでていた。
カダに恋慕の情を抱く者、あるいは審神者としての能力に一目置き、崇拝するかのように近づいてくる者はいたが、カダが求めていたのは心を通わせることのできる友であった。
しかし皮肉なことに、人々の意図や本心を見抜いてしまうカダ自身の卓越した能力が、純粋な友情を築く一番の弊害となっていたのだ。
「引き払うわけではないのか?」
先ほど、古い書物を取り出した書棚に、新たに物を詰め込んでいくガルシャを眺めながら、カダが問うた。
カダが二十歳になったばかりの先日、ガルシャの養父・タルマが死去した。
「タルマの家を整理するので手伝ってほしい」というガルシャの頼みを引き受け、タルマが独りで住んでいた家をカダは訪れていた。
「今日から、私がここに住もうと思って」
こともなげに帰したガルシャの言葉に、カダは、部屋の中を見回して言葉を詰まらせた。
土を踏み固めただけの土間と、奥には小あがりになっている寝室があるようだが、空気の通りもあまりよくなく、全体的に衛生面が気になる。何より厠が外にあり、用を足している最中に、巨大生物に踏みつぶされかねない危険な家である。
「いや、しかし……」
カダが言葉を探していると、ガルシャが静かに言った。
「私ね、目標があるの」
ちらりと、カダを一瞥してから続けた。
「お義父様といつも話してたんだけどね。今の社会的獲得点数の仕組み、あれはどうかと思うのよ」
カダは、ガルシャの方に向き直る。
パムゥでは“社会的獲得点数”という制度、あるいは仕組みがある。それは、各々の活動や生業としていることが、どれほど社会に貢献したかという客観的な評価を、点数として各人が受け取れるものである。生業としていることを評価するのはスベラギだが、他にも個人の評価として報告された行いなども加味される対象となる。それらすべてを統括・判断した上で、スベラギから各個人へ点数が付与される仕組みだ。
パムゥでは通貨の制度はなく、社会的獲得点数についても、それが高かろうと低かろうと、生活や食べることに影響はない。必要最低限のものは、スベラギによる配給と分配によって賄えるからだ。
ならば、なぜ“社会的獲得点数”なるものがあるのかというと、パムゥの人々にとってそれは名誉と誇りの記録であり、自分が生きたという証だからである。
「今、社会的評価を下しているのは人間で、獲得点数を管理しているのも人間でしょ? でも、それってやっぱり無理があると思うの。だって人である以上は情も入るし、いくら厳正な基準を設けていても、一律の評価を下すって難しいのよ、ていうか不可能。だからね、人工知能を作って、人よりももっと厳密で、一定の公平な評価を下せるような仕組みを構築できないかってずっと考えてたの」
カダは感心した。たしかに、今の社会的獲得点数は曖昧な点も多く、それゆえに人々からは、どこか白けた印象すらある。
「お義父様と約束したの。私が必ずそれをやり遂げてみせるって」
ガルシャは、燃えるような生気に満ちた瞳でカダを見つめた。
「うん」
カダも、微笑みながらガルシャに返した。ところがガルシャは、カダからすっと目を逸らし、止めていた手をいそいそと動かし出す。
「そう長くはかからないと思う。あと数年、少なくとも10年以内には実現させるつもり」
ガルシャの声が、先ほどより低く静まったように感じたカダは、同調するように静かにうなずく。
「うん」
「それが完成すれば、私はカザヒコジムナ(情報管理部門)を離れてもいいって思ってる。つまり、そのあとはカムイクジナ(神呼)一本に絞ってもいいかなって、でも……」
ガルシャはそこで言葉を切った。
カダはすでに察していた。
「どちらにしてもしばらくは、こことカザヒコジムナを往復するだけの生活になると思うから、カムイクジナの方には顔を出せそうにないの。すでにバクタ様には了承を得てる。だから……」
しばらく沈黙が流れた。カダは、宣告を待つ罪人かのような気持ちで、ガルシャの次の言葉を待った。
「だから決めて? 私とここで暮らすか、このまま別の道を行くってことで、さよならするか」




