カダ16歳ー出会いー⑥
そこは屋外に作られた広場で、塔内の洗濯物や保存食、そのほか、いろいろな物を干したり一時保管したりできる場所だ。カダの家族が亡くなった件の「干し場」ほど広くはないものの、かなりの広さがある。奥の方に目をやると、テーブルと椅子もいくつか置かれてあり、「人々の憩いの場」といった様子であった。
干し場に足を踏み入れたガルシャは、ずんずんと奥まで進んでいった。
そして、ようやく足を止めた先には、自分の腕を枕に、ゴザの上で寝転がっている老翁の姿があった。その横では、洗濯物と思しき衣が干され、風を受けて揺れている。
「バクタ様、例の者を連れて参りましたよ」
ガルシャが言うと、老人は眠たそうな瞼を持ち上げ「んお? さようか……」と言って、難儀そうに体を起こす。
カダは訝しく思い、眉をひそめた。耳元でさえずる鳥の声が気になって仕方ない。
見渡せば、洗濯物を干しているのは、この老翁の他には、少し離れた所に一組あるだけだ。しかしそれすら、いつから干されているものかわからないといった具合で、しわくちゃになり黄ばんでいる。
「カダというらしいのう。……ほおー、こりゃ別嬪さんだ」
頬を赤くし、照れたような笑みを浮かべる老翁に、すかさずガルシャが突っ込む。
「カダは男だって言ったでしょ? 忘れたの?」
「ほっほっほっほ」
老人は楽しそうに声を上げて笑う。
「この方はね、審神者頭でカムイクジナのミコト、バクタ様よ? とっても偉い人」
ガルシャがカダにバクタを紹介する。
審神者!?――カダは、バクタの肩書というよりも、彼が審神者であることに驚く。
――ならば、なぜ洗濯物など干しているのか。
「はじめまして。カダと申します」
カダは儀礼的に、一応の挨拶をした。
「なんでもそなたは、“すんごい”審神者の能力をもっておるのだとか」
バクタは、高めのしゃがれた声を楽しそうに震わせながら、ガルシャの方に目をやる。“すんごい”というのはガルシャの言葉遣いをまねたものらしい。
「はあ……」
だがカダは、付近の様子が気になって、どうにも落ち着かない。
「申してみよ。さっきから何をソワソワしておるのじゃ?」
バクタは、ほとんど瞳もうかがえないほど垂れた瞼の端に、深い笑いジワを刻みながらカダに問う。
「いえ、その……解せないもので。審神者様ならすでに察しておいででしょう。なぜ、間もなく雨が降るとわかっていながら、洗った衣を干したままでいるのですか?」
カダが答えると、バクタの瞳が、垂れた瞼の間からわずかにのぞく。どうやら目を丸くしたらしい。
「ほう! なぜ雨が降るとわかるのじゃ?」
「鳥がそう申しております。間もなく雨が降ると。しかも、かなり強い雨になるそうでございます」
すかさずカダが答えると、バクタは嬉しそうに笑い声をたてた。
「ほっほっほっほ。たしかに審神者の才はあるようじゃのう! よかろう、付いて参りなさい」
そう言って、バクタはカダとガルシャを連れ、どこかへ行こうとする。
「あの、衣を取り込んでおきましょうか?」
最近は気温も低く空も曇りがちであるため、衣などは一度濡れると乾かすのが厄介である。気になって仕方ないカダがバクタに声をかけると、わずかに振り返ったバクタが言った。
「それは洗った衣ではない。これから洗うんじゃ、雨でのう」
カダは固まった。しかし、バクタは楽しそうに歩みを進めながら、歌うように付け加える。
「強い雨になるなら、なお望むところぞ。雨よふれふれ、しっかり汚れを落としてつかわせ」
カダたちが建物に入ると同時のことであった。大粒の雨が、ひとつふたつと降りだして、間もなく辺りは土砂降りとなったのだった。




