カダ16歳ー出会いー②
カダには、生まれたときから母親がいない。
カダ産んだ女性は、たいそうな麗人であったという。ある日、どこからか、ふらりとやって来て、「行く当てがない、しばらく泊めてほしい」と申し出たらしい。
劇団員は女性を歓迎した。彼女があまりの美しかったからだ。「ぜひ、このまま劇団の一員に」という申し出を、彼女も喜んだ。ところが女性は、やって来たその時、すでにカダを身ごもっていた。
そして、大変な難産の末、ようやくカダはこの世に生を受けた。しかし、カダの母親は、生まれたばかりの我が子を抱くことなく、この世を去ってしまったのだ。
「カダ」と名付けたのは、共同体家族の長でもあった座頭だった。遠方へ興行に赴くにあたり、幼い子どもは足手まといにしかならない。実際、共同体家族の中に、子どもはカダしかいなかった。それでも劇団員でもある共同体家族の者たちは、皆でカダを育ててくれた。カダにとっては、家族であると同時に恩人でもあったのだ。
カダは演劇の筋がよかった。演劇だけではなく、歌に舞踊にと、教えればたいていのことは人並み以上にこなした。そして何より、年を追うごとに、たいそう眉目よく成長していったのである。
カダが12歳となったある日、体調を崩した女性役者の代わりにカダを演劇に出したことがあった。その場しのぎに過ぎなかったにもかかわらず、たった1回の出演が大変な反響を呼ぶことになった。その時のせいで、劇場には連日、人が押し寄せる事態となってしまったのである。
「ここで大変な美少女を見た」「次はいつ見られるのだ」といった問い合わせが殺到したのだ。あえなく、劇団はカダを、女形としてそのあとも出演させることとなった。
カダは、男子であると公表してはいたものの、そのようなことは観る者にとって関係がないようであった。
最初は戸惑っていた劇団の者たちも、このころには、カダに対して徹底的に、女性役者としての素養を叩き込むようになっていた。言葉遣いや仕草、立ち居振る舞いや歩き方についてまで、奥ゆかしく優美に見えるよう指導したのだ。
成長とともに身長が伸びたカダは、16歳になった今では、並の男性と比べて背丈がかなり高くなった。それでも、今年は例年と同じく女性としての役をあてがわれている。
それが、カダにとっては苦痛で仕方なかった。
「さあさ、ご覧あれご覧あれ! これより、この若い神呼様が、大地の精霊より承りし、ありがたい託宣を披露いたします」
突然、しゃがれた男の声が、辺り一帯に響く。空を睨んでいたカダは、声がしたほうへ視線を移した。
大仰な口ぶりで観衆に向かって話す男は、派手な衣装に身を包み、人だかりの中心にある小さな舞台の端に立っていた。
同じ舞台の中央には、小柄で若い少女が、その少し離れた所には中年の女性が立っている。中年女性のまとう白い長羽織には見覚えがあった。何度か目にしたことがある「大陸の審神者」の正装とされている衣装だ。少女は、赤みを帯びた髪の毛を頭上で束ねて唐輪にしており、杏仁形の目は意志が強そうながらも、すっきりとした清廉さをたたえている。
若い少女が一歩前へと進み、両手を大きく広げる。深く息を吸い、天を仰いで目を閉じた。




