カダ16歳ー出会いー①
飛行艇から降り立ったカダは、眉をひそめて、空を見上げた。
穏やかな薄桃色の空が、鈍色の雲に、少しずつその面積を奪われていく様子が見える。
「どうした? また鳥が何か言っておるのか?」
「アマトの駐機場があまりに広いものだから、面食らっているのですよ、ねえ?」
劇団の仲間で、中年の男女が軽口を叩きながらカダを追い越していく。
「いや、やけにうるさいなって……」
呟くように言ったカダの声を、近くにいた別の男性が拾う。
「ああ、干し場で何か、催しをやっているようだ。ちょっとだけ覗いてみるか」
そう答えた男性は、劇団の座長だ。カダが「うるさい」と言ったのは、人の声ではなかった。しかし、普通の人にカダが聞いている声は聞こえない。理解されなくて当然だ、カダにとってはいつものことだった。
「しかし、アマトは温かいなあ」
座長は、そう零しながら劇団の皆を、人が集まっている場所に先導していく。
カダが生まれたのは、アマトよりカミカタヒニシ(北西)の方角にある「ハムナビ」という地方だった。
パムゥの大陸は、右手の親指を握りこんで拳を作り、手の甲と指をつなぐ関節を上にして親指側から見た形に似ている。ハムナビは、その手の甲と指をつなぐ関節付近、一番高い所にあたる位置に存在している。パムゥの大陸の中ではもっともカミカタ(北)にあり、寒い時季ともなれば、雪が舞うような寒冷な土地である。
カダを育ててくれた共同体家族は、温かい時季には地下の畑で作物を育て、寒い季節がやってくると劇団を編成し、大陸中を巡業することを生業としていた。
そして、今年も巡業の季節がやってきた。初回公演は、パムゥ最大の都市、アマトである。
「あの人、見て? なんて見目麗しい女人かしら」
「え? 殿方でございましょう、あのようにお背が高いのは」
女性が二人、カダの方を見ながら声を潜めて噂している。
「カダ、お前いくつになった?」
カダに問うたのは、年輩の、やはり劇団の男だ。カダの方を何度も振り返りながら立ち去っていく女性たちを横目で追っている。
「16歳になりました」
カダが答えると、男はニヤニヤしながら言った。
「そうか、もうそんなになるか。そなたは少々背が伸びすぎたな。そろそろ、女形も厳しいやもしれん」
カダは静かに目を伏せた。
――辞められるものなら、今すぐにだって辞めたいよ。
胸を掠めた本心を飲み込んで、カダは、先ほどから騒がしいままの空を見上げた。




