最後の職務を見届ける光①
「大丈夫か? 急がずともよい、ゆっくりのぼってきなさい」
カダは、梯子の下を振り返りながら、ヒネを気遣う。
ヒネは、ふらつく足を引きずりながら、カダのあとについて最上階の20階を目指していた。
20階へは、まず一つ上の階の19階まで階段であがり、19階の中にある非常階段をのぼる必要があった。しかし非常階段は、階段という名の、ほぼ梯子である。何かあってはいけないからと、先にのぼるようカダに促されたが、押し上げる仕様になっている梯子上の扉を、開けられる自信がヒネにはなかった。カダに頼み、先に梯子をのぼってもらっている。
一段ずつ、梯子に足をかけるごとに、横木に、足裏が食い込むように感じる。重力は、確実に大きくなっている、しかし、体力がないせいで、そのように、感じるのかもしれない。どちらが正しいのかは、ヒネには、もはや、わからなかった。
わずか十数段の梯子を、必死の思いで、時間をかけてのぼり、上階へ、顔をのぞかせたときには、息も、絶え絶えとなる。ヒネの手を、カダが握り、最後の一段を、引っ張り上げてくれた。
こけた頬に伸びた髭のせいで、カダはまるで別人のように見えた。いつから食事をとっていないのか、すっかり痩せてしまっていたが、ヒネを引き上げる力は頼もしいほど強かった。
20階は、広々とした半屋内となっている。床は石造りで壁はなく、大きな柱が点在しており、目立った装飾はない。かつては、さまざまな儀式にも使われていたと聞く。
気持ちのよい風が吹き抜け、ヒネは、風が吹いてきた方を見やる。夜中だというのにやけに外が明るい気がして、一瞬不思議に思った。不気味な静けさに、違和感を覚える。
おつき星は毎日、およそ1時間ずつヒガシに現れる時間が遅くなる。昨日の今頃は土砂降りだったはずだが、意識も記憶もぼんやりしていて確信がない。
ヒネは、カダのあとについて、20階の中央付近にある階段へと歩み寄る。こちらは梯子ではなく螺旋状の階段で、階段の入り口には強固な柵状の扉があり、鍵がかけられている。カダは懐から鍵を取り出し、錠前に差し込んで回し、扉を開けた。
階段の上は何もない茫洋とした広場のようになっており、階段のそばには頑丈な石造りの、楕円形の天井を支える柱だけの建屋がある。
建屋の中にはヒネの視線より少し上の高さに、上から固定されるかたちで、発・送電装置が取り付けられている。ヒネは何気なく手前に落とした視線の先に、自分の影が伸びていることに気がついた。すべての電源は落とされたはずなのに、いったいどこから光を当てられているのだろうと振り返る。
「カダ様……」
ヒネの声にカダは反応し、ヒネが振り返った先に目をやる。
「あれは……何でございましょうか」




