甘くて苦い優しい飴玉①
深夜、上空で轟いた爆発音によって、ヒネは目を覚ます。
惑星パムゥの潮流をたどっている最中に意識が途切れてしまい、カダに助けてもらって以降、ヒネの体力は回復するどころか、失われていく一方であった。
目を覚ますたびに呼吸は一層苦しく、身体は寝返りをうつのさえ苦痛に感じるほど重い。
ヒネは、窓にたたきつける雨雫を眺めながら、己の命がもう長くないであろうことを感じていた。
ふと、こめかみに埋め込まれた電子機器に意識を向ける。カダに送った電子書簡は未開封のままだ。送信から2日は経っている。カダは、もはや開ける気がないのかもしれない。それとも、ヒネの無礼をまだ怒っているのだろうか……。
寝床脇の小机に目をやれば、いつのものとも知れない粥の載った膳が置かれている。粥は一層薄く、もはや水に沈殿した米くずと表現した方がいいかもしれない。それでも、ヒネの分にと残しておいてもらえる心遣いが、ひどくありがたいと感じる。
少しでも腹に入れねば――そう思うのに、起きあがるのがひどく億劫でためらう。
やっとの思いでなんとか起きあがり粥を喉へ流し込むと、ヒネは再び寝床へと倒れ込み、そのまま意識を失ってしまった。
それから、どのくらい経ったのであろう。
突然の尋常ではない揺れで、ヒネは目を覚ました。
寝床に横たわったまま、自分が地中に飲み込まれるような感覚に陥る。実際に、ヒネは自分がいる部屋ごと、いくらか下方へ下がったようであると感じた。地震が起きたのだと思った。
しかし、今やスベラギの塔は、逃げ場のない海にとり残された孤島も同然である。地震が起きようとも、海に飲み込まれようとも、なす術などない。
ひどい揺れであった。被害はいかばかりであろうかと気になり、ヒネは力を振り絞って起きあがる。時刻は昼過ぎであると確認した。
なんとか寝床から這い出るようにして立ち上がり、壁伝いに自室を出た。
自室を出てみれば、廊下が、いや、スベラギの塔ごと大きく傾いているのだとわかる。ヒネは廊下に出てみたものの、どこへ向かえばよいものかわからず、ひとまずカムイクジナの詰所へ向かう。辺りは、耳が痛いほどの静寂に満ちている。残っている者たちはカムイクジナの人間ばかりではないが、今となっては皆が、居室のある階としては最上階の18階で寝起きしている。しかし、まったく人の気配を感じない様子に、ヒネはしだいに不安を感じはじめた。
ギィイイイイ……バタン……
突然の物音に、ヒネは驚いて振り返る。見れば、階段の扉の前にカダが立っていた。
安堵の表情を浮かべたヒネは、カダに声をかけた。
「カダ様、ご無事でしたか。先ほどの大きな揺れは、地震でしたでしょうか……」
だがヒネは、カダの様子がおかしいことに気がつき、口を閉じた。カダはうつむき、茫然と足元を見つめている。
「カダ様……?」
しかしカダは答えない。ヒネは、もう一度辺りを見回して人の気配を探る。
「みなさまは、どちらに?」
再度カダに向き直り、ヒネは問いかけてみた。
「呑まれた……」
カダが一言、答える。
「の、呑まれた……とは?」
カダの言葉の意味を理解しかねて、ヒネは再び問う。
「私の落ち度だ……。私としたことが、まったく読めておらなんだ」
ヒネは意味がわからず、しかし看過しがたい状況が起こったのだと察して眉をひそめる。
「塔の1階から6階までが崩れ落ちた。今はかつての11階まで浸水しておる」
カダのその言葉で、ヒネの胸に嫌な予感が走る。
食糧がほとんど底をついた今、食事は一日に一度の昼のみで、わずかな薄粥を皆で分けあっている。
粥を炊く設備は食堂にあるため、わざわざ食堂のある階まで下りて、皆で協力して支度をし、食べている。そして、食堂があるのは6階だ。
ヒネは、先ほど確認した現在時刻を思い出し、はっとして口元を押さえた。
突然、カダがはっとしたように顔を上げると、おもむろに歩きだした。しだいに足は大股になり、ある一点を目指すように早足で歩く。ヒネも慌てて追いかけたが、追いつきそうにない。
「いかがいたしましたか? カダ様」




