儚くおぼろげな、もう一つの潮流
「カダ様、策謀の主がわかりました」
ヒネは半分だけ意識を現実に戻し、今感じているままを、こめかみの電子機器を使って記録に残す。
とても言葉で説明できるはずもないと思ったのだ。
感じたままを、意識で捉えたままを記録として残し、カダに送る。それは、すなわち自分の心に秘めたものまで、カダにさらけ出してしまうことと同じだろう。
それでも見てもらいたかった。一つひとつの「想い」など、全体から見れば儚く淡い夢のようなものだ。だが、それらが重なりあって溶けあい、惹きあっては反発しながら、完璧な調和を保って流れ続けている。
荘厳にして絶佳たる、この「想い」の潮流は、カダにどうしても知ってもらいたかった、感じてもらいたかった。
カダへ送る記録も終わり、そろそろ惑星パムゥの潮流を離れようとヒネは考えていた。意識の状態ではなんともないが、おそらく現実にあるヒネの肉体は限界を迎えつつあるに違いない。
けれど……と、ヒネは潮流の先を振り返る。
どの道をたどっても、行き着く先は一つ。命をつなぐことさえできるならば、再びの統一と平和にたどり着けるはずだ。
憂うことなどない。
だが、そこにたどり着くまでの道のりを考えると、ヒネは安易に喜ぶことはできないと思った。
シュバウル人は、わざわざ「違い」を作った。それは争わせるためであり、惑星パムゥとそこに暮らす人々の命を、より永くつないでいくためだと考えて間違いなかろう。そしてそれは、やがて再びの統一を果たすことを最終的な目的としているに違いない。かつて、彼らシュバウル人が築き上げた社会、完全な平和を再現させるために――。
しかし、本当に統一など必要なのだろうかと、ヒネは改めて考える。
なぜ、「一つ」にこだわる必要があるのか。我々はもともと、魂の泉で「一つ」だった存在なのだ。“違い”は悪いことばかりではないはずだ。何事においても、違いを受け入れ、楽しむならば、人生はより豊かでさまざまな喜びを生んでくれるのではないだろうか……。
「一つ」にならねば、平和に、幸せになれないなど、決してないはずなのだ。
そのとき、ヒネは太い潮流から分岐する細く弱々しい潮流があることに気がついた。
よく見ればその潮流は、他のどの潮流よりも遠く、ずっと遠くまで続いているようだ。
「あれはなんだろう……」
先ほどは気がつきもせず、従ってのぞいていなかった細く弱い、その潮流の方へとヒネは向かう。そして意識を、そっと潮流の中に忍び込ませた。
「あ……」
それは、まだおぼろげで、儚い夢にも似た光景であった。だがヒネは、たしかにその光景を意識で見てとった。
そして、意識が、そこで途切れる。
それは、現実の体が、限界を、迎えたためであった。




