策謀の主がわかりました
ヒネは、しばらく逡巡したのち、はっとする。
シュガの言葉とガルシャの教えが、交互に脳裏に響いた。
違いを作るのは、争えるように、そして少しでも長く、より長く生きながらえさせるため――シュガは、そう言っていた。
大切なのは何を見つめているかだ。「最終的に望む世界」を見失わなければ、必ずそこへたどり着ける――ガルシャから受けた教えである。
「最終的に望む世界」
人が望む世界、惑星パムゥが望む世界、魂の泉が望む世界――。
「そうか……」ヒネは、ようやく気がついた。
シュバウル人があえて新しい者たちに違いを設けたのは、人々を争わせるため。
そしてそれは、惑星パムゥの意識が成長するのを待つための、いわば時間稼ぎだ。カダが説明してくれたように、人々の成長が惑星の成長を追い越してはいけないのだ。
あるいは、仕掛けであるといえるかもしれない。目に見える違いで分離感を経験させ、あえて醜く争わせることは、最終的にまた一つになるための仕掛けだ。
だって、彼らシュバウル人は知っていたから。
人はいつだって「幸せ」を求める宿命なのだと。
どんなにひどい世界で、醜く争っていても、いつだって自分と大切な者たちには平和であってほしいと願う、それは永遠に不変であるのだと。
ならば、人が命をつなぐ限り、行き着く先はやはり一つなのだ。
そのときだった。遠くの方で呼ばれた気がして、ヒネは振り返る。潮流が流れてくるずっと先、遠い過去の方からである。
ヒネはそちらへ全意識を集中させる。意識なら、どれほど悠久の時であろうと一瞬で飛び超えられる。
気がつけばヒネは、惑星パムゥが誕生して間もないころまで遡っていた。
それはラーヨウを中心に大回転する銀河の中で、衝突しては砕け、回転しては結びつきを繰り返し、やがて生まれた赤子の星であった。人の子がそうであるように、星は真っ赤に燃え上がり、ひたすらにエネルギーを持て余している。
そのとき、ヒネは、はっきり感じた。
――ここに命を宿そう
それは淡くおぼろげで、しかし明確な「想い」であった。もちろん想いの主は惑星パムゥ……
――違う。
ヒネは燃えさかる惑星パムゥを前に、背中で、全身で、その「想い」を感じ取る。
「誰?」
ヒネは振り返る。
そこには果てしなく広がる宇宙と、惑星パムゥを見守る兄弟星たち、そして中心から見守るラーヨウがあった。
「そうか……これは……」その想いは、惑星パムゥだけのものではないとわかる。ラーヨウを中心とする、銀河の星すべてと、宇宙の「想い」。そして、それらすべてを生み出した命の源、魂の泉そのものの「想い」だった。
突然、それらすべての「想い」に導かれるように、別の「想い」が流れ込んでくる。
ふいに、懐かしさを感じる声が、胸に響いた。
「魂の泉が、死後に我々の魂が還る故郷だというなら、この世界は、我々の魂が再び夢を見るために戻ってくる場所なんだ」
それは、自分たちの故郷を失ってもなお、命をつないでいきたいと願った、シュバウル人の「想い」であった。
自分たちが降り立つことすら叶わない土地に、それでも新たな「故郷」を作るべく、子孫の遺伝子に手を加えた。そうまでして望みを託そうとした、シュバウル人たちの「想い」が潮流の先で流れ込む。
いつしかヒネは、その大潮流の、ただ中を駆け巡っていた。
潮流の中で、次々と生まれては朽ちていく膨大な魂と、それらが紡ぎ出す「想い」にヒネは身を躍らせるように流される。
そして「想い」のすべては脈々と流れ、どこまでも続いていく。
食べ物もない極寒の洞窟で、一枚の干し肉を分けあった者たちの「想い」。
果てしない時が続く牢の中で、家族の無事だけをただひたすらに祈った者の孤独な「想い」。
産まれてくる我が子がせめて、平和な世界で生きられるようにと願って、死ぬとわかっている戦いへ赴いていった者の「想い」。
たどれば無限ともいえる「想い」。
そして、それらの想いにこたえるように、星々は完璧な位置で動き、ラーヨウは恵みの光を放ち続ける。
必要なものは何であろうと、完全なタイミングを見計らい、必ず提供される。
――この潮流をより長く続かせるために、今、必要なものが水であるならば、そうだ。遠くからさまよい来る、水をもたらす星を用意しよう
彗星がどこから来たかなど、もはや明白である。他でもない、魂の泉からもたらされたものだ。ただ惑星パムゥのためだけに生まれ、惑星パムゥだけをめがけて飛んできたのだ。
この、壮大で美しい惑星パムゥをかたちづくる潮流の正体は、惑星に関わるすべての人と、星々、宇宙、すべての「想い」だった。
そう、策謀の主とは――私自身であり、彼らであり、あなた。
魂の泉から生まれた、生きとし生けるもの全ての、いつか抱いたその「想い」に他ならなかったのだ。
「カダ様、策謀の主がわかりました」




