惑星パムゥがたどる未来②
最初は、策謀の主などいないのではないかと思っていた。しかし、今となっては突きつけられた未来が、そのために犠牲にされる今が、理不尽すぎるように思えてならない。これが誰の企みでもないとするなら、魂の泉にすら失望してしまいそうだ。
ヒネは、なんとか心を平静に戻し、再び意識を集中させて、さらにその先をたどっていく。
あらゆる分野における技術はますます発展し、人々の生活は目覚ましい進歩を遂げていくようだった。スベラギの塔など比較にならぬほどに、建物は高くそびえ立ち、夜も光があふれている。まるで物語の中のような世界である。
しかし、人々の欲は留まるところを知らない。求めては失望し、期待しては裏切られ、心は社会の発展と反比例するかのように、ますます荒んでいくように見えた。
しかしこれは、あくまで富める人々、彼らが作った富める「国家」の話である。豊かな国家が盛大に繁栄する一方で、貧しい国家はより貧しく、他から虐げられ奪われ続ける運命をたどる。それは数百年から千年以上にわたって続くようだった。
科学技術が、現在のパムゥと変わらぬほどの発展を遂げてもなお、いや、発展したからこそかもしれない。その格差はどんどん広がっていったのである。
しかし、豊かな国家にも、しだいに“ひずみ”が生じはじめるのが見えた。
社会が少しずつ成熟していくと、出生率が下がるのだ。社会は、考えもなく子どもをもうける原始的な時代から、労働力として子どもをもうける時代へと移ったあと、人生の選択肢として子どもを授かる時代へと変わる。動物としての本能が子どもを欲したとしても、成熟した社会では、さまざまな軋轢や思想によって、必ずしも子どもをもうけるという選択肢を人々は取らなくなるのだ。
平均寿命が長くなるほどに出生率は下がる傾向にあり、社会の高齢化に伴う経済の鈍化解消や、不足する労働力の確保が重要な課題となる。子どもを産まないという選択肢は当然あっていいが、出生率を上げることは見過ごせない課題の一つとなる。
それはパムゥとて同じである。だからこそ生みの親が、産んだ子どもの全責任を強制的に負わなくてもいいような仕組みを作っている。
出産に年齢の制約がある以上、若い者に子どもを産んでもらわなければならないが、若い者にすべての責任を負わせるとなると、その負担はあまりに大きい。だからこそ、産む親と育てる親は違ってよいのだ。育てるのは人生経験を積んでからの方が、むしろうまくいく場合が多いことは、考えればすぐに導き出される答えであろう。
「新たな者たち」が築いた豊かな国家は、しだいに増えていく老人と、下がり続ける出生率に悩むこととなる。彼らも当然、出生率を上げようと画策するが、一度つなぎはじめた負の連鎖を改善するのは、容易ではなかったようである。
一方で、貧しさにあえぐ国家ほど、人口が増え続けていく。それは、食糧危機をはじめ、富める国家とは違う問題を、山積させる要因となっているようだった。
そこで、富める国家は過去のやり方をまた持ち出したのだ。過去のやり方とは、労働力の搾取、つまり「奴隷の確保」である。
しかし、かつてのように理由もなく強制的に人々を連行してきて、無理な労働を強いるなど、すでに成熟しつつある社会では許されるはずもない。そこであからさまな奴隷ではなく、あくまで安い労働力の対価として、表面的には自分たちの仲間であると認め、移住を受け入れたようだ。富める者にとっては安い労働力で、だが奴隷にとっては安くないであろう労働対価をあてがうことで、彼らはすべて解決できる気になったのかもしれない。
しかし当たり前のこととして、仮に奴隷として貶められようとも、彼らも尊い御魂をもった“人”である。彼らとて、より豊かで安心できる生活を求める権利はある。一族を引き連れ、山を越え、海を渡って豊かな場所を求めるのは必定であるといえよう。貧しい国家に生まれた者たちが、豊かな国家に流入し続けるのは必然的な流れとなるのだ。
そして繁栄を極めたはずの国家は、流入してきた新たな民族によって数で占拠されはじめる。やがて秩序を乱され、それまでの価値観は変わり、少しずつ社会の在り方すら変わってしまうのだ。しかし、それはかつて貧しき者たちを虐げ、自分たちに都合のいいように侮辱し続けてきた富める者たちの、当然の末路ともいえよう。
今まで虐げられてきた少数派の民族による反乱が各地で勃発し、国としての形態を失ってしまう大国もあったようだ。
それは数百年、一番長い潮流の先でも数千年とかからないようであった。やがて星中の民族は混血が進み、人々の姿は平準化され、その見た目に違いは無くなっていく。そして、それは価値観や文化、社会の在り方も同じことであった。
やがて、世界はさらなる時を経てのち、再びの統一へとたどる。
ここでヒネは、はっとする。世界は混乱にみち、人々がもともと持っていた価値観は損なわれた。しかし結果的に、惑星はまた一つの国家として、まさに現在のパムゥのように落ち着いたのだ。
ヒネは別の潮流に意識を向ける。こちらの流れもまた、猛々しいものがあった。




