惑星パムゥがたどる未来①
ヒネは、覚悟を決めて寝床に横たわり、仰向けに体勢を整える。
この数日間、意識を失ってしまうことが頻繁にある中、今日は朝から体調がいい。体力も限界を迎えつつあり、魂の泉をたどるなら今しかないと思った。
ヒネは目を閉じて意識を集中する。
呼吸はどうしても乱れ、いつもよりうまく集中できずに時間がかかる。
それでもやがて、まぶたの裏で、眉間から拳一つ分ほど先に、光の玉ができた。少しずつ球を大きくし、ようやく意識を中に滑り込ませることに成功した。次は、潮流を見つけなければならない。ただし今回は「個人」の流れではない、惑星パムゥの潮流だ。
ヒネは意識を研ぎ澄ませ、極限まで集中する。
何もない真っ暗闇の中で、惑星パムゥの「潮流」を探した。
意識の中で、遠く左の方から、唄が聴こえた気がした。毎朝聴いている例のあの唄だ。ヒネはそちらに注意を向ける。
――見つけた
確信があったわけではない。でも、あの唄はおそらく惑星パムゥが奏でる唄だ。ヒネは意識のままで、唄が聴こえる方へと飛んでいった。
それは壮大な、そして筆舌しがたい美しさをたたえた潮流であった。
視覚で例えるなら、色とりどりの光をきらめかせながら、優美に流れる大河のようである。
聴覚で例えるなら、さまざまな楽器が見事に調和し、壮麗な世界観を表現した調べといえようか。
その潮流は、過去から脈々とつながれており、また未来に向かっても延々と続いている。
策謀の主を見つけるなら、向かうべきは過去だろう。だがヒネは、どういうわけか未来が気になった。
おそらく今はもう、「新しい者」たちによる新たな時代へと、すでに潮流が流れはじめたところだ。つまり、分岐点は過去のものとなった。もはや、ヒネらパムゥ人が、今から変えられる未来などないだろう。
「ならば追えるはずだ」、そう思ったときにはもう、ヒネは未来へ向かう流れに身を投じていた。最も太く、最も自然に流れる潮流である。
それは、ある程度予想していたとはいえ、予想を超えるひどいものであった。人はかくも残忍になれようかといった有様だった。
最初のころは、仕方がないといえよう。言葉を持たず、生まれたばかりの赤子同然である彼らは、本能のままに食べ、奪い、殺し合う。しかし、それは知恵なき動物と同じようなものだ。彼らは欲求を満たそうと考え、反応するままに行動をとっているだけだ。それを罪だとはいえないだろう。
問題は、文明が生まれ、ある程度の社会性が発達してからである。
いくらか身につけた知恵を駆使し、しかし相変わらず欲求を満たすために、彼らは他者を前に、騙し、奪い、殺しあった。
争いは、ただ肌の色が違うこと、目の色が違うこと、あるいは男女の違いといった生まれつきの違いから始まる。その違いをもとに、さまざま理由をつけ、優劣を見出すのだ。
果ては、何もないところに権力という幻想を生み出し、邪な意図で社会構造を構築していった。
新しい者たちは、国の概念を生み出したならば土地を奪おうとし、金銭の価値を作ったのちには金品を奪おうと企んだ。ときには、人が人を奴隷として扱い、命をゴミ同然に蹴散らしては、相変わらず騙し・奪って・殺しあう。
やがて社会は産業が発展し、あらゆる技術を生み出して、豊かになっていく。しかしその一方で、人々は苛立たしいほどに、原始のころからの欲求を捨てることはない。むしろ、その欲はさらに複雑さを増し、留まることなく膨れあがる一方だ。
動物にまたがり、武器を手に殺しあった人々は、時代が変わっても争うことを止めようとはしなかった。むしろ、武器はより高度に複雑化し、戦い方も狡猾さを極めていく一方なのだ。
社会が発展するほどに人々は、他人よりも優れていること、他人より多く持っていること、そして他人から称賛されることに価値を深めていくようだった。そして、自分より劣っていると判断した者は簡単に排斥し、それどころか、己の欲を満たす道具にできぬかと画策しているようにすら見えた。
「なんと愚かしい……」
己の欲を満たすために、惑星中を汚し、他人を支配しようとする人々を前に、ヒネは泣きたくなった。
自分たちパムゥの人々は、惑星パムゥを汚さぬように、そして原住の生物と共存できるようにと、力を尽くしてきたではないか。精霊の声を聴き、敬い、何より調和を大事に生きてきたではないか。それなのに、自分たちよりこのような愚かな者たちを選ぶというのか、惑星パムゥは……!
ヒネは惑星パムゥに対して、怒りすら覚えた。いったい、自分たちはなんのために生みおとされ、命をつないできたのだろう。そんなにも「他から来た者たち」を拒むというのか。
ヒネは、暗澹たる気持ちで天を仰ぐように、未来の惑星パムゥの空を捉える。
――あ。
意識の中ではあるが、ヒネが捉えた未来の空は、青かった。
実はそんな気がしていた。でも、あえて触れないでおいてきた疑念。
時々、肉の夢で見ていたあの世界は、別の惑星などではない。そう、いつも見ていた青い空と海の世界は、紛れもない「惑星パムゥがたどる未来」なのだということ。
疑念が確信に変わった時、ヒネは、怒りなのか哀しみなのか分からない感情に縛られた。
何が悔しいのだ? 何が辛いのだ? 自分でも説明できないもどかしさに苛立つ。
ただ、今ヒネが見ている未来はこんなにも絶望的なのに、肉の夢で見た青い空と海の世界を生きていた彼らは、いつも絶望的な人生を生きていたわけではなかった。
自分は、この世界を、未来を、否定したいのだろうか。それとも希望を見いだしたいのだろうか。
自分がいなくなった世界を、パムゥ人の血が途絶えた世界を、神呼も審神者も存在しない世界を――。
しかし、ヒネは気を引き締めるように自分を奮い立たせた。
潮流はここで終わりではない、この先を見届けてやろう。
この先で最も得をする者が、おそらく策謀の主を教えてくれるという気がしたからだ。




