最初で最後の任務②
「ならば単刀直入にお伺いします。策謀の主は……カダ様ですか?」
カダは少し驚いたように目を見開き、ヒネを見つめた。次いで顎に手をやり、視線を逸らして思案顔になる。
「策謀の主か……どうであろうな」
その反応にヒネはたじろぐ。これは想定外であった。認めることはないかもしれないと思っていたが、ごまかすにしても「どうであろう」とは、どうなのだろう。
「あの、ごまかさないでくださいませ」
ヒネは食い下がってみる。するとカダは寂しげな笑みを漏らした。
「私が策謀の主、か……。たしかに見方によってはそうやもしれぬ。いや、何も隠すつもりはないのだ。私はたしかにシュバウル人に会ったことがある。頼みごともされた。この惑星の声を聴く者を見つけて、それを判じてほしいということと、発・送電装置、および飛行艇の一部部品の回収である」
ヒネは言葉を失った。カダがあまりにあっけらかんと話すものだから、戸惑って次の言葉が見つからなかったのだ。
「惑星の声を聴いてくれたのは、そなただ。そして発・送電装置の回収は、すでに各塔に向けて回収部隊が出発した。本日、早朝の出発便で最後だ。職務を任せた当人らには、当然説明もしておるし、その上で引き受けるか否かの選択をしてもらった。しかし、このような時勢であるゆえ、当人らには他言無用としておった。混乱を避けたかったのだ」
そこまで話したところで、カダの顔に哀色が浮かぶ。
「申し訳なかったな。ヨヲセには、もっとも過酷な塔の一つである第5の塔へ行ってもらった。各部隊には必ず一人以上、見習いも含めて審神者か神呼を入れたのだ。あのように過酷な環境を耐えられそうな神呼、あるいは審神者は、ヨヲセを置いて他に考えられなかった」
そうか……と、ヒネは思う。
昨日ヨヲセが、送電塔に「アレしに行く」と言っていた “アレ”とは、左官の職務ではなかったのだと思い至る。
そして大陸外を渡る飛行艇を動かすなら、船長が必ずいるはずだ。「断崖の塔へ行く」と言っていたヒネの父、カイザンも同じ目的で赴いたのだろうと今になって思い至る。
しかしなぜカダは謝罪するのだろう。ヒネは訝しく思い、カダに聞いた。
「なぜ申し訳ないのですか?」
するとカダは目を伏せるように言った。
「ヨヲセから誘われたであろう? 共に参らぬかと。もし、すべてわかっていたなら、そなたは付いて行ったのではないか?」
ヒネは目をしばたたく。たしかに職務の内容は知らなかったが、知っていたとて一緒には行かなかっただろう。なぜそう思うのか確信はなかったが、やはりヒネには、スベラギの塔を離れる選択肢があったようには、どうしても思えないのだ。
「たとえすべて知っていたとしても、やはり私はここに残っておりました」
ヒネがそう言うと、カダはこわばった顔をいくらか緩めて「そうか」 とだけ答えた。一瞬、なぜだかカダが、とても心許ない様子に見えて、ヒネは戸惑う。
「先ほどご自身が『ある意味では、策謀の主かもしれぬ』と、仰ったのは……」
ヒネは、雰囲気に吞まれまいとするように、再度カダに問うた。
「それは、宇宙船で眠る人々に関係しますか?」
カダは、視線をヒネに戻した。
「先日のことでございます。私は、この惑星パムゥの上空に停泊している宇宙船へと参りました。そこで、シュガ様というシュバウル人の方にお会いしたのですが……」
「し……しばし待たれよ。今、なんと申した?」
カダが狼狽したように、ヒネが話している途中で口を挟む。
「シュガ……シュガと申したか? 宇宙船へ参ったとは、いったい、どのようにして」
珍しくカダが慌てた様子である。ヒネは、カダの誤解を察して、付け加えた。
「参ったと申しましても、意識だけで参ったのでございます。」
するとカダは、しばらく呆気にとられたあと、突然声を立てて笑い出した。
「まこと、そなたには……本当に、驚かされることばかりであるよ」
ヒネは、他に何か驚かせただろうかと不思議に思ったが、そもそも今は何がおかしいのかもわからず戸惑う。
「いや、失礼いたした。続けよ」
カダがそう言って、ようやく笑いを収めたので、ヒネは続けた。
「宇宙船の中は、見たこともない人々でいっぱいでした。彼らはまるで別の星からかき集めてきたかのように、肌や髪の毛、目の色がそれぞれ異なっているのです。彼らはご自身の状況をまったく理解しておらず、また体の筋肉量は多いようでございました。ですので、シュガ様にお尋ねしたのです。あなたがたは奴隷を作っておいでですかと……」
カダは、もう笑ってはいなかったものの、まるで面白い逸話でも聴いているかのように楽しげな様子である。ヒネは、咳払いをして続けた。
「すると『奴隷ではない、新しい者たちだ』とおっしゃいました。争えるように、そしてより長く生きながらえるように、見た目に違いを設けたとも。さらに、こうおっしゃったのです。『私たちはカダにすべてを託した、あとは彼に聞くがよいだろう』と。」
ヒネは最後まで話すと、カダの方をまっすぐに見た。




