私は行けない、けれど
「一緒に……来てくれないか?」
静かな声でヨヲセが言った。ヒネは少し驚き、目を上げた。
「同伴者として二人までなら連れていけるのだ。私にはもう、家族もいないから……」
ヨヲセのまなざしが静かにヒネの瞳を捉える。だがヒネは目を伏せて答えた。
「ありがとうございます。でも私は、一緒に参るわけにはなりません」
するとヨヲセはしばらく黙ったあと、つぶやくように言った。
「そっか、やっぱりヒネも……」
ヨヲセが何か言いかけて止めるので、ヒネは落としていた視線を戻す。
そして待ち構えていたヨヲセの視線と自分の視線がぶつかる。瞬間、ヒネの身体に稲妻のような予感が貫いた。
――ヨヲセとは、これが最後になる
思わずヒネは、ヨヲセの方に手を伸ばしかけ、しかし途中で手が止まる。
一瞬だけ、黒くて長い艶のある髪と、金と紫紺の雅やかな音色が、脳裏をよぎったような気がした。
なにか、自分には遂げなければならない仕事が、片づけなければならない用事があるのだという予感が、強くその手を引き留める。
しかし、ヒネがおろしかけた手を、ヨヲセが捉えた。大きくて弾力のあるヨヲセの手が、今日はやけに冷たい。見上げれば、懇願するようなヨヲセのまなざしがそこにあった。
おそらくヨヲセも同じ予感がしたに違いない。いや、むしろ予感がしたからこそ、最後にどうしてもヒネに会いたいと、降りしきる雨の中をわざわざやって来てくれたのだろう、ヒネは察した。
掴まれた手首から、ヨヲセのあふれんばかりの想いが流れ込んできて、ヒネも何か伝えたいことがあった気がするのに出てこない。かわりに涙だけがこみあげてくる。
突然、ヨヲセがヒネの身体を自分の方へと強く引き寄せた。
「泣くな! ……泣かないで」
そう言ってヨヲセは力の限り、ヒネを抱きしめた。
――そうだ、泣いてはいけない。最後くらいは笑顔のヨヲセを覚えていたい。笑顔の私を覚えていてほしい。
ヒネはそう思って、涙をこらえた。
「私は……実はヒネのことが好きだったんだ。初めて見たときから」
「……存じております」
何をいまさらと思う。あれだけわかりやすく気持ちを零し続けておきながら、気づくなという方が無理である。
「来世で……」
ヨヲセは胸に抱いていた華奢な身体をようやく放し、ヒネの頬に手をやると、視線を逸らしながらつぶやいた。
「え?」ヒネは聞き返した。
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