黒鳥を背負った救世主②
そこにいたのは、父のカイザンであった。
「おとう……さま」
「どうした? どこかへ行くのか?」
カイザンは、相変わらず派手な長羽織を肩から掛け、大股でヒネに近づいてきた。
ヒネは簡潔に、リタがヒガシへ向かう船に乗るようであることと、自分はそれを案じているのだと説明した。
カイザンは顎に手をやり、難しい顔で唸る。
「ヒガシか……たしかに、パムゥの大陸が沈むなら、海流は一様にヒニシへ流れることになるだろうな。今は皆、ヒニシへ向かえと言っておるが、実際のところはどうなんだろう。私は航海術に明るくないからな……」
父にそう言われると、ヒネは一層不安になり、視線を下に落とす。そんなヒネの様子をカイザンはじっと見つめたあと「少し待ってろ」と告げて、どこかへ行ってしまった。
カイザンは、なかなか戻ってこなかった。だが、ほかに行く当てがヒネにあるわけでもなく、しばらくその場で待つことにした。数十分ほど待ったあとで、ようやく現れたカイザンは、笑みを浮かべて言った。
「ヒネ、これからすぐ出発できるか?」
「電力供給が不安定になったろ? そのせいで、大陸内をわたる飛行艇も、無人では飛ばせなくなってるんだ。だから、乗組員不足で困っているらしくてな? それで私も、ここまで様子を見に来ていたんだ……それで、これからシナエズに向かう便の乗務を引き受けてきた。かわりに一人、行き帰りの同行者を許すという条件でな。これで帰りも、困らずに済むだろう」
シナエズに向かう飛行艇を目指しながら、カイザンは説明した。
ヒネは、望外の喜びに息をのんだ。
「あ……ありがとう存じます」
ヒネがそう言うと、カイザンは笑った。
「水臭いことを言うな、可愛い娘たちのためではないか」
そう言ってカイザンは、ヒネの前に一歩出て、押しあう人の波に道を作るように進んでくれた。黒鳥が舞い踊る真っ赤な長羽織の背中が、ヒネにはやけにたくましく見えた。
シナエズは、マガよりさらにヒガシにあり、到着までにはアマトから五時間を要した。到着してみれば、飛行艇乗り場も、船が停泊する港も人でごった返していた。
これから離着陸する飛行艇の時刻は掲示されているが、すでに到着したものについては不明だ。すべてが臨時便扱いで、マガからの飛行艇がいつ到着したのか、あるいはまだ来ていないのかもわからない。
窓口には常に長蛇の列ができ、とても問い合わせられる状況ではなさそうだった。
ヒネはやむなく港へ向かった。シナエズの港は、飛行艇の離着陸場と隣り合わせになっている。
しかし、こちらも人であふれており、前に進むのもやっとである。
ヒガシへ向かう船は、全部で2隻しかなかったので、ヒネはその2隻に当たりを付けてうろうろしていた。
「ヒネ? ヒネじゃないかい?」
背後から声をかけられ、ヒネは振り返った。
「おじさま!」
見知った顔に出会えて、ヒネは相好を崩す。
ヒネの共同体家族が住む家の、隣に住んでいた男性だ。金具づくりを生業としており、衣づくりを生業とするヒネたち家族とは、親交が厚い人物だ。
もしやリタたちと一緒なのではと思い、ヒネは期待とともに安堵する。
「おじさま、リタたち……わたくしの家族はご一緒ですか? 急ぎお伝えしたいことがございまして」
ヒネがそう言うと、男性の顔から笑みが消えていく。
「それじゃあ、リタに会えたわけじゃないのだな」
「え……」
男性は目を伏せ、言いにくそうに続けた。
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