黒鳥を背負った救世主①
なんとかカムイクジナに着いてみれば、詰所内はかなり慌ただしい様子であった。
「あの、何があったのでしょう。先ほどの停電は……」
周りの喧騒から放れ、書き物をしていた神呼の一人に、ヒネは話しかけてみた。
「どうやら落葉の塔が倒壊したらしい。今、緊急時特別補填仕様に切り替えーー」神呼の男性がそこまで言ったとき「復旧! とりあえず復旧です!」という声が上がった。
「落葉の塔」と呼ばれる第8塔の送電塔が倒壊した。
落葉の塔は巨大生物から守るため、下部は巨石でとり囲まれているが、本体は木製の塔である。降り続く大雨によって木製の塔が脆弱化し、しばらく補強作業もできていなかったため、崩れ落ちてしまったのだという。
「緊急時特別補填仕様は一時的なものです。電力は依然として不安定であるため、不要不急の電源使用は自粛するよう通達をお願いします」
説明している者は、カムイクジナでは見たことがない人物だった。おそらく電気関係を専門とする別部署の人間だろうとヒネは思った。
カムイクジナが停電によって立て込んでいるのは、各送電塔の起動装置がカムイクジナの詰所内にあるからだ。
これはずっと昔、各送電塔ができた際に、無人であった18階が簡易的な起動装置の設置場所となったことに由来するという。ヒネが、以前ヨヲセから聞いた話だ。
数十年前に、カムイクジナの部署が当時の7階から18階に移された際も、起動装置の移設は後回しにされたとかで、依然として18階に設置されたままとなっているらしい。
惑星パムゥに全部で8つある発・送電塔のうち、これで「ミナナミの塔」である第2塔と、「落葉の塔」である第8塔からの送電が途絶えてしまった。
ヒネは、胸騒ぎに苛まれていた。スヒとの通信は途絶えたままだ。何度か通知を送ってみたが、一向に返信はない。
「スヒたちはもう飛行艇で、シナエズに向けて出発してしまっただろうか……」
ヒネは逡巡する。今、シナエズに行けば間に合うだろうか、間に合えたならリタたちを説得できるだろうか。
しかし説得したところで替わりになる船の保証はない。
あるいは、はるばるシナエズまで向かっても、リタたちを見つけられないかもしれない。その前に、シナエズに向かう飛行艇に乗れないかもしれないし、乗れたとして帰って来られる保証もない。
様々な理由がヒネを引き留める。
「だけど……」
何もしなければ後悔しやしないだろうか。とりあえず行ける所まで行って後悔するのと、何もせずスベラギの塔で漫然と過ごして後悔するのと、どちらがよいだろう。
ヒネは次の瞬間、行動していた。今のぼってきた階段を引き返す。どうせスベラギの塔にいてもすることがないのだ、ひとまず飛行艇乗り場まで行ってみよう。そこでまた、次をどうするか考えることにした。
地下街に出ると、昼間だというのに、夜と同様の薄明りにヒネは戸惑う。昼間に地下街を照らす明かりは、ラーヨウと同じ「紫外線」を含んだ明るい光である。季節や天候に関わらず、どこの都市でも同様だ。しかし、電力供給が不安定になった今、あらゆる場所の電灯は最小限に抑えられているのだと実感した。
そのような中で、飛行艇乗り場へと向かう「動く道」が、以前と同様に稼働していて、ヒネは驚いた。前に聞いた「地熱と磁力を動力としている」という説明は正しかったようだ。自然の力は偉大だと、ヒネは感心した。
しかし「動く道」の両側で、いつもなら賑わっている人々の営みは、以前とは違い悲愴感が漂っている。集まっている人々の多くは、避難船に乗るために飛行艇でやって来た者たちだろうか。皆一様に大きな荷物を持っていたり、ぐったりと座り込んだりしている。
ヒネは、動く道の上を速足で歩き、飛行艇乗り場へと急いだ。
飛行艇乗り場では、多くの者たちが乗艇権を求めて、烏合の衆と化していた。
「イズルモに行ったとて、船があるとは限らないでしょう」
「アマトは海がすぐそこだが、あれは内海だ。迂回しなきゃ大洋には出られんのだからーー」
「船の乗船券を持っている人から優先して、乗艇権を発行します! 乗船券をお持ちの方は、こちらに!」
さまざまな声が飛び交い、皆が右往左往としている。
当然ながら、シナエズへ向かう飛行艇も、マガへ向かう飛行艇も満席だった。ヒネは肩を落とし、再度スヒと、今度はリタにも通信を試みたが、やはり応答はない。
そのときだった。
「ヒネ?」
突然、名前を呼ばれたヒネは、辺りを見回して呼びかけてきた主を探す。
「こっちだ」
次で、ようやく声がした方向を捉えることができ、ヒネは振り返った。
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