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実家からの報せ①

 カダは、倒れてから2日経った今も、まだ復帰できていない。

 そしていまだ降り止まない雨を、自室の窓から恨みがましくヒネは眺めた。


「スヒ?」

 前触れもなく、脳内に届いた通知を開いたヒネは、思わず声を上げた。

 “スヒ”は、ヒネが所属していた共同体家族、つまり実家の一員である。ヒネとは歳が近く、誰とも馴染めなかったヒネが、唯一気軽に話せた友でもあった。

【ヒネ、お元気にしていますか? こちらは皆、元気にしておりますよ。しかし先日のミナナミの件で、我が家も例外なく、皆があわてふためいております。『ヒネは大丈夫なのかしら』と、今朝も話題に上がり――】

 ヒネは、脳内で文字を追いながら、瞑目した。

 ミナナミの水没は、パムゥの人々に切迫した危機感をもたらした。

 スベラギも大陸全土に対して、正式に避難勧告を発令することとなり、今や発信される情報のほとんどが避難船に関するものばかりである。

 家族を失った悲しみに沈んでいたヨヲセは、しかし翌日には職務に戻っていった。ただし今は左官でも穴築でもなく、一隻でも多く造船する職務と、長い航海に耐えられるように、船を補強する職務に回されていると聞いた。

 もはや大陸中が、浮足立っていると言っても過言ではないだろう。


 電子通信でいくつかの他愛ないやりとりのあと、お互い顔が見たいという話になった。

 ヒネは女性師範のナウラのときと同様、談話室へ向かったが、途中でヒネの実家には顔を映せる通信用の道具は無かったはずだと思い出す。

 訝しく思いながらも通信を始めてみたところ、なぜ顔を合わせて通信することがスヒにも可能なのかが、わかった。

 スヒの背後に映る場所が、実家ではないと一目でわかる。

「実は今、マガの飛行艇乗り場に来ているの」

 スヒは、ヒネが実家を出た数ヶ月前と、何一つ変わっていなかった。会っていない期間がそこまで長いわけでもないのに、ヒネはとても懐かしく感じた。


挿絵(By みてみん)


「シナエズから出る船に、皆で乗れることになったのですよ」

 なぜ飛行艇乗り場にいるのかと問うたヒネに、スヒは笑顔で説明してくれた。

 10か月ほど前に、のちに「おつき星」と呼ばれる彗星が発見されたあと、スベラギから万が一に備えて大型船を増産する方針が示された。

 しかしパムゥは、ほぼ全土が遠浅の海に囲まれた大陸である。そのため、大きな船を造ることも、停泊させることも容易ではなく、船の増産は難航していた。そのため、かつてより大型船は飛躍的に増えたものの、いまだその数は十分とはいえないらしい。小さな都市ともなれば、船自体が無きに等しいようだ。

「マガでは、まったく乗れる船がなくて。ですが、運よく『シナエズ』から出る船の乗船券が当たったのです。これから飛行艇でシナエズまで向かうことが決まって――」

 ヒネは、皆が乗る船が見つかったことが、心から嬉しいと思った。

「もしかしたらヒネとも、しばらく会えないと思ったのでございます」

 スヒは寂しそうに続けた。

「この先どうなるやもわかりません。どこへ向かったのかもわからないとなれば、ヒネも心配なさるかと思いまして。本当は、ヒネも一緒だとよかったのだけれど……」

 ヒネは、スヒの言葉が素直に嬉しく、礼を言った。

「そんなことを言ってくださるのはスヒだけです。いつも気にかけてくださって、本当に感謝しております」

 ヒネがそう言うと、スヒは目を上げる。

「あら、そんなことはございませんよ? 特にリタなんて、誰よりもヒネのことを気にかけているもの」

 ヒネは、突然出てきたリタの名前に目を丸くする。

 “リタ”というのは、ヒネの異母兄弟である。しかし、幼いころからお互いに対してあまりいい感情はもっておらず、最後はヒネがリタから逃げるように、実家である共同体家族を出てきた。

 スヒは言う。

「ヒネはあまり皆と仲良くしたがらなかったでしょ? でもリタはいつも言っていたのですよ? ヒネは私に遠慮しているだけだって。甘え方がわからないだけだから、ヒネが本当に困ったときには、必ず皆で助けてさしあげましょうねって。結局そのような機会もないままでしたけど。ヒネはいろいろな面であまりに優秀すぎるのですわ」

 そう言ってスヒは苦笑した。

 ヒネはなんと言っていいかわからず、固まった。ヒネが抱いてきたリタの姿とあまりに違うからだ。

 どういうことだろう、私はリタをちゃんと見ていたのだろうか――ヒネは、さまざまなリタとのやりとりを思い出そうとする。

「ヒネが家を出た日も、本当は、リタはお別れ会を盛大にしたいって言ったのです。でも、なんだかヒネが辛そうだったから……私たちは、変に「お別れ会」なんてすると、ヒネが帰りづらくなるといけないからって反対してしまったのですよ。けれどもリタは、ヒネといられるのはきっともう最後だから、お別れ会をしたいのだと最後まで言って。結局、今となってはリタが正しかったのですね」

 ヒネは急に胸が苦しくなった。



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