海の底へと消えた都市
その晩、突然もたらされた恐ろしい報せに大陸中が震撼し、そして人々はミナナミの無事を祈った。
しかし夜が明けるころ、ミナナミ全域が跡形もなく水底へ消えてしまったとの凶報が大陸全土に届いた。助かったのは、運よく地上へ上がることが叶い、高台まで逃げおおせたわずかな者だけだったという。
ミナナミは、アマトに次ぐ二番目に大きな都市であるが、人口のわりに土地が狭い。そのため、どの地域よりも穴築が盛んで、もっとも深い所では地下30階にも及ぶと聞く。昇降機などは用をなさず、皆が必死で逃げ惑ったであろう様子は、容易に想像できる。しかし、あふれかえった水は上から下へと容赦なく流れ込み、上階へと向かう人々を阻み、そのまま都市ごと飲み込んでしまったのだ。
わずか一夜にして 、パムゥ第2位を誇ったミナナミの都市は、追憶の中のものと化してしまった。
ミナナミの出身であるヨヲセの悲しみが、途方もないだろうことはヒネも承知していた。わずかに助かった者の中に、ヨヲセの家族がいるかもしれないという微かな望みはあったが、おそらくその可能性は限りなく低いだろう。
翌日の昼下がり、ヒネはガルシャの家を目指した。まだ、自身の体力も万全ではなかったが、今朝からヨヲセの姿がどこにも見えないのが気になっていたのだ。
今日も朝から雨が降り続いており、永遠にあがりそうもない雨空を見上げて、ヒネは嘆息した。
ガルシャの家についてみれば、寝床ではなく部屋の隅にうずくまるように座るヨヲセの姿があった。
以前、掃除をしたときのままに、部屋が綺麗な状態を維持していることにヒネは少し驚く。
「ヨヲセ?」
扉の前に立ったまま、ヒネはヨヲセに声をかけた。身じろぎもしないヨヲセに、寝ていたのではと思い至り、ヒネはうかつに声をかけてしまったことを反省する。だが、ヨヲセは膝に頭を沈めたまま、ヒネに答えるように言った。
「私が……私が未熟だったせいだ」
ヒネは、自分の胸がひりつくような感覚を覚える。
「私が、もっと早く声を聴けていれば……そしたら、母も父も……妹たちだって……」
そう言ってヨヲセは、鼻を一つすする。
「ヨヲセ……」
だがヒネは、それに続く言葉を見つけられず、部屋の中央付近に据えてある卓に、持参した食事の包みをとりあえず置いた。
しばらく逡巡したが、声も無く肩を震わせて啜り泣くヨヲセがあまりに気の毒で、そっとそばまで歩み寄る。ヨヲセの傍らに膝をつき、そのがっしりした両肩の上に手を回す。ヒネの腕では、ヨヲセの全部を包み込むことは到底できない。膝にうずめたヨヲセの頭をそっと包むように抱きしめた。
しだいにヨヲセの肩は一層震えだし、泣き声がもれる。それはやがて嗚咽となって、ヨヲセは子どものように声を上げて泣きじゃくった。
そして雨が、再び激しさを増していく。
泣き叫ぶ声すらかき消すような雨音が無情にも大地をえぐる。
ヒネは、ヨヲセの心に寄り添って、痛みを分かちあった。
ヨヲセを胸に抱きながら、天窓にたたきつけられ、はじけ散っては流れていく雨雫の先を、ただただずっと、ヒネは眺めていた。
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